大石高典・近藤祉秋・池田光穂編「犬からみた人類史」

文春BOOK倶楽部

角幡 唯介 ノンフィクション作家・探検家
エンタメ 読書

人と犬の関係を多様に論じる

 長期の北極探検で犬を同行させると、環境や行動の厳しさから、ついつい手荒く扱うことが多くなる。80日間におよんだ冬の極夜の旅では、途中で食料が枯渇し、自分が生き残るために相棒である犬を食うことを覚悟した。結果的には食べなくて済んだのだが、しかしそのことを本や映像をつうじて発表すると、犬を食べようとするなんてトンデモナイと多くの人々から拒絶反応を受けた。実際には食べてはいないのに食べようと考えただけで批判を浴びたのだ。これがもし駱駝(らくだ)や驢馬(ろば)だったら、少しちがった反応だっただろう。

 人間と犬をめぐる諸相は複雑だ。なぜ人間は犬のこととなるとこんなに感情的になるのだろう。犬とは人間にとって何なのか? これは人間とは何かという問いにつながっており、じつに考察に値する問題だ。

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source : 文藝春秋 2019年10月号

genre : エンタメ 読書