おいしいものをいただく喜びは誰にとっても変わらない。来年は昭和100年にあたるが、その昭和天皇にとって冬はとても待ち遠しい季節だった。
皇室とともに歩んだ鴨の歴史
古来、日本人は野鳥を食してきたが、天皇や地方の豪族の鷹狩によって捕獲された“鴨”は最上のものとされた。かつて豊臣秀吉は、天皇が持っていた鷹狩の支配権を奪い、公家の鷹狩を禁じ、武家の特権とした。その後の徳川政権の御鷹支配は、天皇家の権威を受け継ぐものであったと同時に、各地方の領主の権力の一端を吸収するものであった。徳川政権はその権威維持と武家社会の統合のために、野鳥の贈答と饗応のシステムを手中に収めて、権力の頂点としての将軍の地位をゆるぎのないものとしたのだ。やがて明治維新を迎えると、鷹匠文化は皇室に奉還された。明治以降は鷹狩に代わって、細い溝に誘き寄せた鴨が飛翔するところを無傷で捕獲する、叉手網(さであみ)猟が主流となった。現在は宮内庁が管理する千葉の新浜鴨場と埼玉鴨場において、閣僚や各国大使らの接遇が行われるが、捕らえた鴨は調査のため標識をつけてすべて放鳥する。料理には別途、肥育された鴨が供される。
25年と6カ月、宮内庁大膳課で昭和天皇の料理番を務めた谷部金次郎さんもかつて陛下のために鴨を料理した。陛下がご体調を崩されたときも、ご快癒の祈りを込めて料理を作り続け、最期にお作りしたのはくず湯だった。そして1989年の崩御後、約40日間、殯宮(ひんきゅう、棺が安置された御殿)にお供えする食事を作り、一連の儀式を終えると、きっぱりとその職を辞したのだ。忠義な臣下は主君を替えないという「忠臣は二君に仕えず」を貫いた谷部さんの想いはいまも変わらない。谷部さんに昭和天皇がお好きだった鴨料理を訪ねていただいた。
『French』トゥールダルジャン 東京の幼鴨のロースト マルコポーロ
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