高野連はアメリカに学べ

巻頭随筆

大慈彌 功 フィラデルフィア・フィリーズ環太平洋担当部長
エンタメ スポーツ 教育

 夏の甲子園終了後に行われたU18野球ワールドカップで日本は5位に終わりました。そのメンバーだった大船渡高校の佐々木朗希投手に注目していた方は多いでしょう。

 高校最速の163キロを投げて“令和の怪物”と呼ばれる佐々木投手が7月の岩手県大会決勝で登板回避したことは、球界に大きな波紋を広げました。メジャーリーグ、フィラデルフィア・フィリーズのスカウトとして彼を見続けていた私に言わせれば、あれは國保陽平監督の英断です。致命傷になる故障を未然に防いだと言えるでしょう。

 準決勝後半の佐々木投手はボロボロでした。歩く姿もお尻が下がり気味で、インステップの度合いが多くなっていました。クイックモーションで投げるべき場面でもそうしなかった。疲労困憊になると股関節に体重を乗せた動きができなくなるからです。

 この準決勝も含めて、彼は4試合で435球を投げていました。決勝で投げたら再起不能になる可能性もある。少なくとも今後2年間は無理をさせられない――私は佐々木投手の登板回避に胸をなでおろしたものです。

 ご存知の通り大船渡高校は甲子園出場を逃しましたから佐々木投手は8月下旬にU18直前合宿に合流した時点で久しぶりに強度を上げた練習をしたのでしょう。指に負担の掛かる速球派としては致し方ないのですが、右手中指に血マメができてしまいました。その治療のため予選ラウンドでは投げず、決勝ラウンドの対韓国戦で先発したものの、マメが再発して1回19球を投げただけで緊急降板しました。気になったのは先発前日の試合でリリーフ待機してブルペンで何度も肩を作り、かなりの球数を投げていたという点です。緊急降板は、子供のことを考えない日本球界の悪しき慣習の結果だと思えて仕方ありません。

 県大会決勝での登板回避で國保監督を批判する声もありましたが、批判されるべきは子供の体を蝕む無理な日程を組んでいる日本高校野球連盟です。甲子園での本大会では何回か休養日が設けられていますが、地方大会は依然として連戦が当たり前。子供たちは予選が終わった時点でフラフラです。なのに1週間もすれば甲子園での本大会が始まります。甲子園ではアドレナリンが出て頑張れても、ダメージは計り知れないものがあります。特に投手は可哀想だと言わざるを得ません。

 これが如何にクレージーなことか。アメリカと比較すれば明らかです。アメリカではデータに基づいて子供たちが故障する確率を考え、細かいルールを設けています。

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source : 文藝春秋 2019年11月号

genre : エンタメ スポーツ 教育