蹴られたり、踏みつけにされたりしても、これが俺なのだ、というテーマを見つけたい
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午前4時から5時ごろにかけて起きる。団地の一室で布団から出ると、台所に立って水道の蛇口を思いきりひねり、茶碗を洗う。飛び散る飛沫を不安や前日の屈辱の記憶に浴びせて、茶碗の泡ごと洗い流す。それからゆっくりと緑茶を入れ、午前10時までパソコンの前に座って、書けても書けなくても原稿のことを考える。
「物書きであろうとするならば、1日8時間は机の前に座った方がいいですよ。サラリーマンだって8時間は働いているんだから」
というのが、友人の江上剛の助言であった。
江上は第一勧業銀行(現・みずほ銀行)の不正融資が発覚したとき、広報部次長として奮闘し、上司に噛みついた。その後に支店長にも就いたが、銀行の体質が変わらないことに絶望し、「やめた方がいいですよ」という周囲の声を押し切って作家に転身している。
一方の私は巨人コーチ人事への突然の横やりに直面し、渡邉恒雄の独裁の非を記者会見で訴えたが、それはやむにやまれぬ告発で、先々を考えないまま、61歳で3度目の新たな人生に踏み出していた。
振り返れば、初めは読売新聞で記者稼業を30年、2度目は巨人で球団代表を7年、そして巨人球団代表を解任された3度目は、収入も定まらない物書き修業である。
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source : 文藝春秋 2025年2月号