陛下はお酒、雅子さまは生き物が大好き。ご出産秘話から御所の中の私生活まで……新天皇・皇后おふたりに接した人々が素顔を明かす。
「マイ・ニックネーム・イズ・じぃ」
学習院高等科で初めてお会いしたとき、陛下は笑顔でそう自己紹介されました。そして「じぃと呼んでいいですよ」と英語で言われたのです。たしかにご学友のなかに親しげに「じぃ」と呼ぶ人はいましたが、その意味がわからない私は、遠慮してみんなと同じように「宮さま」とお呼びしました。
陛下から「じぃ」の由来をうかがったのは、それから数年後のことです。中等科時代に校内の植木や盆栽を見て、陛下が「いい枝ぶりですな」と言われ、お友だちの1人が「お年寄りみたいですね。これからは、宮さまを『じぃ』とお呼びしましょう」と言ったのがきっかけだそうです。
冗談がお好きな陛下は、きっとご隠居さんみたいな口ぶりで、枝ぶりを褒めたのだろうと思います。陛下はそういう自虐ネタの冗談がわりあいお好きで、中等科の卒業時に謝恩会でみなさんと演奏した曲は、バッハの「G線上のアリア」。これもあだ名の「じぃ」にちなんで、陛下ご自身が選曲されたと聞いています。
私は、陛下が学習院高等科に入学された1975年にオーストラリアから日本に留学し、同校の2年生になりました。先生の勧めで地理研究会に入ったところ、陛下が1年下にいらっしゃり、思いがけず部活仲間になったのです。
地理研では夏季巡検という2泊3日の研修旅行があり、その年は能登半島へ出かけました。金沢駅に着くと、浩宮さまを歓迎する人が大勢集まっているのにびっくりしました。行く先々に歓迎の群衆がいて、私は当時の日記に「宮さまはかわいそうだと思う」と書いたほどです。
しかし陛下はふだんと変わることなく、能登の海を見渡して「きれいな景色で気持ちいいですね」と穏やかなご様子でした。
私の留学期間が終わる76年のお正月には東宮御所に招かれ、上皇陛下と美智子さまともご一緒しています。故郷のメルボルンに戻ってから陛下と英語の手紙や年賀状をやりとりし、私は高校を卒業すると東京外大へ留学しました。
陛下と頻繁にお会いするようになり、月に1度か2度は東宮御所に招かれました。御所を訪ねると1階の控え室に通されます。テーブルのタバコ入れには、上皇さまのお印「榮」のマークが入ったタバコが入っていました。
そこから私用の応接室に案内され、陛下と山登りや旅行など近況について、写真を見ながら英語でおしゃべりします。家庭教師というわけでなく、英語で文通した延長で自然とそうなったのです。
成人してからは、陛下とお酒をご一緒するようになりました。よく知られるように、陛下はお強いのでいつもしゃきっとされています。ただ1度だけ、陛下が酔っ払ったところを目撃したことがあります。それは、90年に秋篠宮さまがご結婚されたあと、赤坂の東宮仮御所に友人が集まって“先を越されて残念会”のガーデンパーティーを開いた日のことです。ビール、日本酒、ワイン、ウィスキーとチャンポンしたのがいけなかったのか、陛下は話の途中で1点を見つめたまま動かなくなりました。「大丈夫ですか?」と声をかけても「う〜ん」と唸ったきり。やがて席をお立ちになり、そのままお休みになられました。
ご結婚されたあと、雅子さまと地理研のOB会に参加されたことがあります。雅子さまとお話しすると、美しさや品のよさとともに聡明さを強く感じました。さすがは陛下がお選びになった女性だなぁと感慨深く思ったものです。
いわゆる“人格否定発言”があったのはその1年半後のことです。テレビでその記者会見を観て、私もショックを受けました。いつも笑顔を忘れない陛下が、記者たちの前であんな険しい表情をされていたからです。「家族を守る」という強い意志を感じました。
私は居ても立っても居られない気持ちで、陛下がご訪問されるポルトガルの日本大使館に「殿下にお渡しください」と激励のファクシミリを送りました。
「令和」は、いつも笑顔で穏やかな陛下の表情が曇ることのない時代であってほしいと願っています。
天皇陛下が書いた英文の手紙
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source : 文藝春秋 2019年11月号