『A列車で行こう』でアートディンクに出会う
PCゲーマーのバイブルはやがてアスキー『月刊ログイン』へと移り、掲載されるゲーム広告を見ては「どんなゲームなのだろう」と胸を膨らませた。初代『WIZARDRY』、『Ultima III』などの洋ゲーも徐々に入り、スタークラフトも冴えていたが、まぶたが動く美少女のアートが鮮烈な印象をもたらした当時のスクウェア社が『Will』のあとに出した『クルーズチェイサー ブラスティ』は、最高の期待をもってリリースを待っていた子どもたちの財布に大きな痛手をもたらした。あと『ザ・スクリーマー』(創現)お前もだ。クソゲーを掴んではファルコムのゲームで口直しをする、の繰り返しだった。
そんな私がアートディンクに出会ったのは名作『A列車で行こう』である。見た目はシンプルなパズルゲームのように見えて、いまでいうトレイン経営シミュレーターの骨格を備えている作品であり、中学生の私には衝撃であった。適切に施設を建設し、鉄道会社を経営しながら、ホワイトハウスからなぜか大陸の反対側にある大統領別邸まで大統領列車を線路でつないで送り込むという画期的なタイトルだ。テーマが渋すぎる。
その後、実はこの「A列車で行こう」はジャズの名盤「Take the 'A' Train」(デューク・エリントン;1939年)のもじりであることを知り、私自身もジャズに興味と関心を持って、アメリカ遊学に行く動機にもなった。お陰でいまでも作業中に時折ジャズを聴く。
アートディンクの作品は、高いゲーム性と素人お断りのハイブローなテーマが特徴だ。「こんなのPCゲーム好きしかやらんだろう」というようなゲームタイトルを躊躇なく出してくる。
江戸時代が舞台の『天下御免』
例えば『天下御免』。舞台は江戸時代。徳川幕府の治世のお陰で世は泰平を謳歌する中、プレイヤーは選択した商品を扱う貿易商・問屋としてこの時代の物流を担う。ちょうど大量輸送に適した千石船から、船足が早くタイムリーに輸送できる高速船へと移り行く豪華絢爛の江戸が面白い。
ほかの商人との談合、取引の妨害なんでもあり、誰かから送られる刺客から身を護るために護衛の武士を雇ったり、より良い取引を求めてお奉行様のところへ伺い「山吹色のお菓子」を振る舞う。雇った番頭は仕事に慣れるとタメ口をきく増長ぶりを示し、あぶく銭ができると博打を打ちに行ったり、吉原に繰り出して遊女と戯れ、茶屋落ちする女性を身請けして愛人にする。そして最期は閻魔様の前に行き、どういう人生だったか関わった人による多数決で極楽浄土にいくか地獄に落ちるか決まる。欲望に忠実に生きていれば、ほぼ確実に地獄へ行くんだよ。
私は素晴らしいゲームだと思うのだが一般的にこんなゲームがウケるわけねえだろ。
なんだ、この日本のベンチャー界隈が騙してかき集めてきた出資金を盛大にばら撒いて女子アナや芸能人と合コンするような設定は。いまも昔もたいして変わらんじゃないか。