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日本軍がアメリカの空母を沈めたはずがない…大敗北・レイテ決戦前の「握りつぶされた報告」

日本軍がアメリカの空母を沈めたはずがない…大敗北・レイテ決戦前の「握りつぶされた報告」

『帝国軍人』 #1

genre : ライフ, 歴史, 読書

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山本五十六は唯一の「実戦」経験者だった

戸高 海軍時代、山本五十六の部下だった人が史料調査会には何人もいたので、話はたくさん聞きました。彼は本当にカリスマですが、実は軍人としては恵まれていません。長官に上りつめたのは驚くほどです。日本の海軍の何が弱かったかといえば、太平洋戦争が始まった時に、艦隊の長官クラスで国家戦争の実戦経験者は山本五十六ただ一人だった、ということです。第一次世界大戦に少し出ていますが、ほかはほとんど、国家戦争を知らないのです。支那事変(日中戦争)しか知りません。日本の海軍は、実は実戦経験のない海軍でした。そのような事情もあり、唯一、日露戦争に参加した山本五十六にカリスマ性が生まれました。

米内光政(左)と山本五十六

 すでに日露戦争から30年以上が経っていたわけですから、海軍内の人事は入れ替わっています。さらに悪いことに、日中戦争で、海軍が一万トンの巡洋艦を出します。向こうにいるのはジャンク船なので、日本の軍艦を見たら逃げるわけです。「どこへ行っても敵はいない」「無敵だ」と思い込んでしまった。負けようがない環境で、自動的に若い士官が無敵海軍という自己刷り込みをしていく。

フィリピンは誰が行っても勝てない

戸高 どこへ行っても、「俺たちが行ったら勝つんだ」と思い込んでしまった。行ったら負けると思う軍人も困りますが、行けば勝つと思うのも困ります。軍隊は難しいのです。

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大木 山下奉文の場合は、マレーで勝っているから、作戦能力について問題はなかったでしょう。ただフィリピンの時は、もう、誰が行っても勝てません。

戸高 そうです。フィリピンは誰が行っても勝てない。戦い方として、華々しく戦って散るのがいいか、持久戦をしたほうがいいのか。どうせ負けるなら損害を小さくして、そのまま負けたほうがいいのか。そう簡単に、どちらがいいとは言えません。

日本軍がアメリカの空母を沈めたはずがない…大敗北・レイテ決戦前の「握りつぶされた報告」

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