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裁判はデマだった?

 日本では、この裁判に関して、次のような話がネットを中心に広まっている。

「裁判中、任天堂の弁護士がゲラーに問いかけた。『問題のキャラクターは超能力が使えますが、もしあなたと似ているとおっしゃるなら、今ここで超能力を使ってみせてください』と。だが、ゲラーはその場で超能力を示すことができずに敗訴した」

 この話はゲラーの超能力を否定するために持ち出されることも多い。だが、実話なのだろうか?

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©iStock.com

 出所を確認してみると、この話がネット上で書き込まれたのは、オンライン・フリー百科事典のウィキペディアのページが最初であることがわかった。日付けは2005年4月3日で、「ポケットモンスター」のページ内である。そこには、最初から根拠となる情報源は一切示されていなかった。

 ところが話としては面白かったせいか、ここから各所に転載され、日本のネットで広まっていくことになった。

 しかし、実際はデマであることがはっきりしている。2018年、デジタルメディアの「ヴァイス」が、ゲラー本人と、裁判で彼の弁護を担当した弁護士のジェフリー・ブリッグスに取材を行い、さらに裁判記録も取り寄せて裁判の内容を報じている。

「ヴァイス」の記事によれば、裁判は2001年から2003年にアメリカのカリフォルニア州中央地区の地方裁判所で行われたという。

 ゲラーは、裁判でまずプライバシーの侵害を訴えた。ところが当時、彼はイギリスに住んでいたため、カリフォルニア州におけるプライバシーの権利は適用されないとして、2001年8月16日に訴えは却下されてしまった。

 次にゲラーは、名前が勝手に使われたことで、自身のブランドが傷つけられたとも訴えた。けれども、そちらは「ユンゲラー」というキャラクターの名前が日本でしか使われておらず(海外では「カダブラ」という名前がつけられていた。「アブラカダブラ」という呪文に由来)、アメリカの任天堂が関わっていないことや、ゲラーのブランドが傷つけられたと言えるだけの根拠がなかったことなどから、2003年3月3日に訴えが却下されている。

 このように、裁判でゲラーが超能力を示せなかったという事実はない。もちろん、それはゲラーの超能力が本物であることを意味しないが、だからといって根拠のないデマで否定していいということにもならない。

 先述のとおり、ゲラーにまつわる逸話は非常に多く、その検証や選別は難しいこともある。しかし面白さを優先することで、内容が肯定的・否定的かは問わずに逸話は独り歩きし、やがてそれが「実話」のように流布していく。

 エンターテイナーを自称するゲラー自身、それらをうまく利用しているところもあるが、私たち外部の人間はそうしたことに踊らされるばかりではなく、冷静な対応もしていきたいものである。

【参考文献】
ユリ・ゲラー『ユリ・ゲラー わが超能力』(講談社、1975年)
※「Uri Geller. The New Official Uri Geller Website」
『SMAP×SMAP』(フジテレビ、2009年8月31日放送)
『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』(NHK BSプレミアム、2016年12月14日放送)
ジョン・ロンスン『実録・アメリカ超能力部隊』(文藝春秋、2007年)
「Investigating the paranormal」『Nature』Volume 251, 559-560 (October 18, 1974)
R. Targ, H. E. Puthoff「Information transmission under conditions of sensory shielding」『Nature』Volume 251, 602-607 (October 18, 1974)
Russell Targ, Harold Puthoff『Mind Reach』(Delacorte Press, 1977)
James Randi『Flim Flam!』(Prometheus Books, 1982)
David Marks『The Psychology of the Psychic』(Prometheus Books, 2000)
「元の相棒(マネジャー)が“インチキ・7つの手段”を大暴露!!」『週刊プレイボーイ』(集英社、1978年7月4日号)
※CIA FOIA「EXPERIMENTS ? URI GELLER AT SRI, AUGUST 4-11, 1973」
※CIA FOIA「APPENDIX I, EXPERIMENTS ? URI GELLER AT SRI」
Barry Karr「The Geller Case Ends : Psychic' Begins Court-Ordered Payment of Up to $120,000 to CSICOP」『Skeptical Inquirer』(May / Jun 1995 Vol.19, No.3)
※Wikipedia「『ポケットモンスター』の版間の差分」(2005年4月2日4時7分時点における版と2005年4月3日12時6分時点における版)
※VICE「Uri Geller vs. Kadabra: Die bizarre Geschichte hinter der verschwundenen Pokémon-Karte」

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