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新型コロナウイルスでわかった耐性の違い

 2020年になって、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの関係を考える上で、非常に興味深い可能性が示された。新型コロナウイルスに対する耐性が、人種によって違うことがわかったのだ。

 新型コロナウイルスについては、年齢や持病の有無などによって、重篤になる人とならない人がいることが、発生の初期からわかっていた。そして、世界的に流行が広がるにつれて、欧米人に比べ東アジア人のほうが、比較的軽い症状で済むケースが多く、世界的な重篤患者の分布に偏りがあることが明らかになった。

 その原因については様々な憶測が流れたが、2020年10月に「ネイチャー」に発表された論文で、ヨーロッパの人々が重症化しやすいのは、ネアンデルタール人の遺伝子を多く持っているからだ、との研究結果が発表されたのだ。新型コロナウイルスで入院した重症者と、入院しなかった感染者3000人以上の遺伝子を調べた結果、感染者の重症化に影響を与えるのは、3番染色体にある特定の領域であることが判明したという。その後の分析で、その遺伝子領域は、5万年前のネアンデルタール人から発見されたものとほぼ同じで、6万年前にホモ・サピエンスとネアンデルタール人との交配によって、現代人に受け継がれたことも明らかになったという。

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 ヒトには22組の通常染色体と1組の性染色体があり、それぞれに番号が振られている。その3番目の染色体にある特定の遺伝子領域を持つ人が、新型コロナウイルスに感染すると、重症化するリスクが持たない人の最大3倍になるというのだ。

 ウイルスに対する耐性が、特定の遺伝子を持つか持たないかによってこんなにも差が出るのにも驚いたが、それがネアンデルタール人由来のものであることは、人類の進化に興味を持っている人なら、さらなる驚きをもって受け取ったに違いない。

ホモ・サピエンスの進出とともに絶滅したほかの人類

 昔から、ホモ・サピエンス以外の人類が絶滅したのは、病気に対する耐性が関係しているのではないか、と論じられてきた。しかし、残された骨などからはわからないために、推測の域を出なかった。しかし、僕たちに受け継がれていたネアンデルタール人の遺伝子が、その可能性を教えてくれたのだ。

 これにより、ホモ・サピエンス以外の人類が、病気によって絶滅したことが確定したわけではなく、一つの可能性が示されただけだ。しかし、ホモ・サピエンスが進出した時期に合わせて、多くの地域でほかの人類が絶滅したことを説明するのに、矛盾はない。