邦画のゴジラシリーズとして12年ぶりに製作され、大ヒット作となった『シン・ゴジラ』で注目されたのは、これまでのゴジラ映画に多く見られた子供向け要素や、空想科学的なガジェットを排して、現実の日本とゴジラとの戦いを描いた点だ。劇中には実在する日本政府・官庁の組織や役職が多数登場し、危機管理のスキームも忠実に再現されている。
多くの人にとって、災害で活動する組織といったら、テレビで見かける被災地で活動する自衛隊や消防、救急、警察を思い浮かべるだろう。真っ先にイメージされるのはこのような組織であって、永田町や霞が関の住人たちではないはずだ。『シン・ゴジラ』では実働部隊の苦闘も描いているが、物語の焦点が政府中枢に当てられていることが、逆に新鮮に映ったのかもしれない。
が、実際に劇場で観た方の多くは、セリフやら字幕で出てくる大量の役職に理解が追いつかなかったのではないか(筆者も初見ではとても追いきれなかった)。例えば、長谷川博己演じる主人公の矢口蘭堂官房副長官の初登場シーンで、志村秘書官のセリフにある「キンサンチーム」が、「緊急参集チーム」の略称だと気づけた方はそう多くないだろう。
本記事では、『シン・ゴジラ』の地上波初放映を前に、劇中の主な舞台となった首相官邸、立川の災害対策本部予備施設について、危機管理上の役割を中心に解説したい。
日本の行政機構の中枢
『シン・ゴジラ』前半の舞台となるのが首相官邸だ。最上階の5階に主人公の矢口官房副長官ら、首相や官房長官といった政府要人の執務室が置かれている日本の行政機構の中枢だ。
現在の首相官邸は2002年に完成したもので、旧官邸と比べて危機管理機能が大幅に強化されていることが特徴の一つとなっている。
1929年に完成した旧官邸はスタッフの執務スペースが狭く、老朽化が進んでいた上、電子情報機器の設置が考慮されていないなど、オフィス機能に問題を抱えていた。災害や事件が発生しても、対策本部用のスペースが存在しないため、1978年に発生したダッカ事件、1995年の全日空ハイジャック事件等では、小食堂・喫煙室に対策本部が置かれていた。1996年以降は官邸別館に危機管理センターが置かれることになったが、元は記者会見等に用いる施設を流用したもので、手狭な状態が続いていたという。
また、ヘリポートもなかったため、緊急で首相がヘリで移動する場合、赤坂の在日米軍施設を利用することになっていた。
現在の首相官邸は地階を危機管理専用フロアとし、危機管理センターを設置している。危機管理センターにはオペレーションセンターや各会議室があり、緊急事態発生の際には、事態の規模に応じて、対策室や対策本部が設置される。また、屋上にはヘリポートが設けられたため、わざわざ移動せずとも緊急時にヘリに搭乗することが可能になった。