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ジャカルタ発“快速 東葉勝田台行”、スリランカ“昭和末期の日本の風景”、極まる3密…もはやなつかしい? 思わず二度見してしまう“アジアの駅”

2022/01/30
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(5)ダマスカス・ヒジャーズ駅とダマスカス・カダム駅(@シリア)

ダマスカス市街にあるヒジャーズ駅舎【◆】

 ミャンマー以上(?)に、外国人観光客が訪問できなくなってしまったアジアの名物駅の筆頭格は、シリアの首都・ダマスカスにあるヒジャーズ駅であろう。

 1913年にオスマン帝国により建設されたトルコ様式とシリア様式の融合による駅舎は、かつてはイスラムの聖地・メッカやメディナ(ともに現在はサウジアラビア領)へ直通するヒジャーズ鉄道の発着駅として賑わった。1962年にイギリスで公開された映画『アラビアのロレンス』によって、ヒジャーズ鉄道の名は一躍世界に知られることとなり、ダマスカス有数の観光名所となっていた。

重厚感が漂うヒジャーズ駅舎内部【◆】
ダマスカスの中心部からやや離れたところにあるダマスカス・カダム駅。現在はここから列車が発着している【◆】

 ただし、2011年のシリア内戦勃発以前から、ヒジャーズ駅にはすでに列車が発着しなくなっていた。駅及びその周辺の再開発事業のため、ホームや線路はすべて撤去してしまい、列車の発着機能はここから約5キロ離れた郊外のカダム駅に移ってしまっていたからである。

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 それでも、ヒジャーズ駅舎を訪れる観光客は少なくなかった。映画の力は偉大である。それに、ホール内には近距離切符売り場が営業を続けていたため、駅舎内に鉄道利用客や鉄道員の姿が全くない、というわけではなかった。

ヒジャーズ駅舎内に掲げられているアサド大統領の肖像画。駅の内外に貼ってある【◆】

 ホールの片隅には、駅の再開発事業によって新たに建設される予定の巨大な駅ビルの模型が設置してあった。近代的な駅ビルが列車の発着ホームを覆う巨大ターミナルが構想されていたのである。

 そんな計画が、内戦下のシリアで今も存続しているのかは定かでない。そもそも、あの模型はまだ壊されずに残っているだろうか。そして何より、多くの観光客が訪れていたオスマン朝由来のヒジャーズ駅舎を、いつか列車で再訪することができるだろうか。

写真=小牟田哲彦

◆◆◆

 上記5つの駅に関するさらに詳しい歴史やエピソードなどは、『アジアの停車場:ウラジオストクからイスタンブールへ』(三和書籍)をご覧ください。なお、◆印の写真は『アジアの停車場:ウラジオストクからイスタンブールへ』に収録されている写真です。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

ジャカルタ発“快速 東葉勝田台行”、スリランカ“昭和末期の日本の風景”、極まる3密…もはやなつかしい? 思わず二度見してしまう“アジアの駅”

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