文春オンライン

ロシアのウクライナ侵攻が、日本にとって「他人事」ではない深刻な理由

2022/03/03
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大量に生成した実在しない人物の映像や画像をSNSで駆使

 現在進行形の話題ではありますが、ウクライナのゼレンスキー政権に対して強烈な批判をおこなってきた著名ブロガーは、人工知能で作った顔写真を駆使した架空の人物で、ロシアによる情報工作の一環だったという話も暴露されています。加えて、SNSなどで流布されている一部のロシア軍展開情報もまた、実在しない人物を大量に生成して流し込んだ映像や画像を駆使していると見られます。誰もが高性能カメラで位置情報付きの情報をSNSに提供できる時代でも、ロシアは古典的な手法と最新のネット技法を並存させながら情報戦に打って出ていることが明らかになっています。

 我が国でも、日本語圏でのロシア関連情報についてはそれなりに精査しつつ、対策を打とうとしているところではありますが、なにぶん日本はちゃんとした民主主義国なので、政府・警察などが「治安維持を目的として国民の言論を監視するよ」と言ったら大変なことになります。法整備して適切な手法について国民の合意がないとね、というところで足踏みをしてしまっているのが現状ではないかとも思います。

「我が国のサイバー安全保障の確保」事業 政策提言(要旨集)
https://www.spf.org/global-data/user172/cyber_security_2021_abstract_web.pdf

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 ネット上の文脈では、これらのディスインフォメーションの流通によるソーシャルグラフ形成は「ミーム戦」、あるいは中国式に言えば制空権をもじった「制脳権」とも呼ばれる新たなドクトリンです。とりわけ、私たちの長期記憶に対して影響を及ぼそうとするこれらの作戦は、短期的には「なんだこの中華アカウント、過激なこと書いて恥ずかしくないのかな」と思うわけですけど、中長期的にはまったく別の日本政府の落ち度の報道に接して先日馬鹿にしたはずの中華アカウントと似たようなツイートをしたり、友人と話してしまうことになるのです。