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「9回無死満塁で投手は桑田真澄。“初球から打て”と言われ金縛りに…」 元ヤクルト・城友博が野村監督に“気に入ってもらうため”の“戦略”

2022/06/30

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, スポーツ

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成功するために最も必要な能力とは…

 いまも強烈に覚えていることがあります。神宮球場での巨人戦、相手投手は桑田真澄さん。0-1で9回無死満塁の場面。2番打者の僕に、「初球から打て」と野村監督は指示を出しました。

 動揺した僕はその瞬間、金縛りにあってバットが振れませんでした。セオリーでは、この場面は1球見送ることが多いからです。 

 代打で同じ場面がもう一度めぐって来た。カウント3ボール-0ストライクで、ベンチのサインは「打て」。「桑田はコントロールがいい。無死満塁で3-0、打者・城ならコントロールを乱さず真っすぐを投げるだろう。3-0から打った方が確率が高い」と、野村さんはそう読んだ。試合状況、カウント、打者の性質、投手の能力などを考慮して判断した。でも、僕は見逃し三振…。ベンチに戻って叱られました。

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「なんで打たんのや、おまえ。責任を取るのはベンチや。監督が『打て』と言ったら、打て。消極的で使えん」

東京ヤクルトスワローズ時代の野村克也氏 ©文藝春秋

 試合後、クラブハウスに戻ったら、松井(優典一軍総合コーチ)さんから「明日からファーム(二軍)な」と一言、告げられました。即二軍。

 結果的にそこから真中(満)が起用されるようになった。積極的になれなかったことで、二軍落ちという仕打ちがあった。野球観が変わった瞬間でした。

「野球とは何か? 何が最も大切な能力か?」と問われたら、「勇気」だと思う。バッティングで大事なのは、何よりも勇気です。

 プロ野球でもビジネスでも、成功する人はどんな人か?「逆境において楽天的に考えられる人のことだ」と、野村さんはおっしゃった。その言葉通りです。

©文藝春秋

 僕らプロは、ある意味で毎日、逆境にいる。決定的な場面で、「オレが何とかしなきゃ」と思い詰めるタイプは打てない。体が硬くなるから。

根拠を確認することで組織は強くなる

 監督は根拠を尋ねる人でした。試合中、ベンチで古田(敦也)さんを立たせて「あの配球は根拠がない」と叱る姿を見てきました。

 結果を出せる人には根拠がある。だから僕も、会社で部下が行動した後はヒアリングをしています。「なぜこの会社へ営業をしに行ったのか」「どうしてこの人にアポイントを取ったのか」など、根拠を尋ねるようにしています。