1ページ目から読む
2/8ページ目

「稲妻強盗」らしくない逮捕劇

 男の人相が脱獄逃走中の坂本に酷似しているので、手配写真を見せると、相違ないと判明。各事件の被害者らに確認して一致したことから、警視庁は斎藤賢次こと坂本慶二郎(啓次郎)を指名手配した。しかし、所在は依然不明のままだった。

 ところが、たまたま同月18日、埼玉県浦和町大字浦和、材木商・石井万吉方に強盗が押し入り、主人をはじめ家人を縛り上げて脅迫中のところ、用便に起きた店員が発見。他の部屋に寝ていた数名の店員を呼び起こして騒ぎだしたため、賊は慌てて逃走しようとしたが、つまずいて倒れたところを捕らえられ、浦和警察署に引き渡された。

 この犯人は(東京)京橋区入舟町3丁目、斎藤憲(34)と自称するほかは全く黙して語らず、入舟町を調べたが、そのような者は見当たらなかった。手を焼いた浦和署は強盗現行犯1件だけで浦和裁判所(検察局)に送致した。

 この話を聞いた警視庁は、もしや手配中の坂本ではないかと、白井、兼子の両刑事を浦和裁判所に派遣して調べてみると、狙いはまさに的中して、まごうかたなき坂本慶二郎であった(「警視庁史第1(明治編)」)。

「稲妻強盗」らしくない逮捕劇だが、それにしても、今回も微罪で処理されかかったことになる。

 この際にも相当な混乱があったようだ。逮捕から1カ月後の3月18日付読売には「稲妻強盗に就て」という記事が。

ADVERTISEMENT

「変幻出没、何が何やら訳の分からない稲妻強盗とは、坂本啓次郎という者だというが、先頃埼玉県で捕縛したところ、真っ赤な偽者で人々を驚かせたことは既に記した。一方、警視庁で捕縛した、かの伊藤正隆という者の犯跡が大いに稲妻強盗に類似した点があり、この者と坂本を合わせて稲妻のように悪事をして回ったではないかともいわれる」

 記事はこう書いた後、伊藤は神代村で強盗殺人を犯したとした。この時期、「稲妻強盗」を名乗ったり、新聞がそう見込んだりした“偽稲妻”が横行。警視庁が逮捕した別人との間で記者が混乱したのか。