「千里眼は存在せず 今後実験の必要無し」
16日発行17日付報知夕刊は「千里眼は存在せず 今後實驗(実験)の必要無し」、17日付東朝は「いく子の念寫(写)は手品 悉(ことごと)く詐欺と斷(断)言す」が見出しだった。要点はこうだ。
(1)郁子が念写したとされた「天照」の文字は「人工的の細工を施した痕跡が歴然」
(2)郁子は、透視や念写でのり付けのものは避け「疑い深い人に対しては精神統一ができない」と言う
(3)夫の長尾判事は実験が始まる時、上に向けていた手のひらを下に向け直した。これは手品の合図と見ることもできる
結論として藤講師は「総合して、千里眼なるものは存在しないと断言し、郁子夫人は透視すら不可能で、今後学者は断じて実験する必要はないと断言する」とした。
東京帝大チームの公式発表の形ではなかったが、藤原助手も同様に実験内容への強い疑念を表明。山川は各紙の紙面を見る限り、この時何も発言しておらず、結局藤講師の意見はそのまま東大の公式見解となった。福來は激しく反発。今村も「軽率で学者にあるまじき奇怪な態度」と批判した。井上哲次郎は「研究する価値は大いにある」と東朝紙面で述べたが、流れはほぼ決まっていた。1月18日付報知は「混戦に陥れる千里眼研究者」の見出しで学者の動揺を指摘したほか、「長尾家家宅捜索を行は(わ)れんとす」と刑事事件化の可能性まで示唆した。
留意すべきなのは、藤講師は、同年1月6日付で報知が「我社の千里眼婦人研究」の見出しで報じた中で、報知が費用を負担して実験に送り込んだ人物だったこと。背後に「千里眼つぶし」の画策があったとは考えすぎだろうか。混乱が続いているさなか、悲劇が起きる。