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障害のことが正直なところよくわからなかった

 亮さんの体の状態は、

(1)全身勝手に力がめちゃくちゃ入って突っ張る(亮さんは小学校時「つっぱりくん」とも呼ばれていた)

(2)体が意思に関係なく動き続ける

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 というものだ。

「脳性麻痺? 初めて聞いた。それって障害ってことか。ん? 障害ってなんや」

 20年生きてきて、身近に障害がある人がいなかったし、街中で出会っても、自分の人生には関わりがない人だとどこかで思っていた。私の世界には存在しなかった。

 だから正直なところよくわからなかった。

「これから手続きをして、リハビリを続けてゆきましょう」

 静かに告げられ、そこからは心を動かさず、ただ淡々と事務手続きを済ませ車に乗り込んだ。帰りの車で夫と何を話したのか。まったく覚えていない。

夫は3階のベランダで静かに泣いていた

 帰宅後、いつものように亮さんのおむつを替えながら、夫の姿がないことに気がついた。こんな時間に、何も言わずどこに行ったのだろう。

 しんと静まり返った、3階のベランダに彼はいた。空に星は見えなかった。月はいったいどんな形をしていたのだろう。そのとき、空に光をとらえることはできなかった。

「何してんの。そんなところで」

 夫の横になんの遠慮もなく入り込んで、はっとした。彼は泣いていた。1人ぼっちで静かに、ただ彼は泣いていた。

「なんも言わんかったけど、ショックやったんやな」

 私はこのとき初めて夫の気持ちを知った。

「大丈夫やで」

 私は後ろから夫の肩を抱いてそう言った。

「何泣いてんの。泣かんでええ。大丈夫やって! なんとかなるって!」

「だって……亮夏がかわいそうやんか」

 涙をぬぐう夫の大きな背中を私は短い腕をめいっぱい伸ばしてぎゅっと抱きしめた。

「私の代わりに、泣いてくれたんやな」

 夫が先に泣いてくれたから、私は泣かずに済んだ。ちょっとずるいやんかとも思ったのだけど、それでいい。彼は私より先に涙を見せることで、私に励ます役割をくれたのだ。今でも私は思っている。

 数日後、トイレから夫が私の名を呼ぶ声が聞こえた。

「織恵! おしっこから血出てるんやけど!」

 不安か心配によるストレスでか、夫は血尿を出していた。

「だっさ!」

 便座の中の赤色を見ながら2人で笑った。夫23歳、私20歳の冬だった。