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「テレビ電話は毎日、週末はZoomをつなぎっぱなしに」夫を残し息子2人とマレーシアへ…34歳のワーママが“海外移住”してみてわかったこと

『ルポ 若者流出』より#1

genre : ライフ, 社会, 読書

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仕事と子育ての両立に悩み追われる日々

 日本で会社員だった頃は、海外で暮らすという自分の夢を追う暇も、子どもときちんと向き合うゆとりもなかった。仕事は住宅設備メーカーの営業担当。取引先からの無理な依頼やクレームは日常茶飯事だった。顧客対応のため、ほかの部署に頭を下げて回ることも少なくなかった。

 加えて職場はサービス残業や休日出勤が当たり前だった。1人目の育休から復帰後、午後4時30分までの時短勤務を選んだが、残業する日も多かった。

「取引先に時短勤務とは言いづらいし、ただでさえ忙しい同僚にフォローをお願いするのも気が引けました」

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 退社後は次の「仕事」が待っている。子どもたちを保育園から連れ帰り、午後9時就寝を目指して夕食や入浴、寝かしつけなどを滞りなく進めなければならない。子どもが寝たら、今度は翌日の登園準備や洗濯などの家事が待っている。

「もう日々の生活をまわすのに精いっぱい」

 ITベンチャーを立ち上げ、多忙だった夫もできる限り育児には関わった。家に帰るのが朝の始発電車になっても保育園に子どもを送ったり、週末は積極的に子どもの相手をしたりしていた。ようこさんの母親の協力を得ようと実家の近くに引っ越し、2人目の育休明けには職場も自宅近くの営業所に変えてもらったところ、今度は人手不足の現場に当たってしまった。以前の職場に輪をかけて忙しくなった。

 いつしか、「ねぇママ、きょう保育園でね……」と話しかけてくる子どもの話に耳を傾ける余裕も失っていた。家に帰っても仕事で頭がいっぱいで、食事中に子どもが食べ物をこぼすと「なんでわたしの邪魔をするの」とイライラしてしまう。

 一方で、可愛い盛りのはずの子どもの成長を見守り、向き合えないことに母としての罪悪感も募った。少し先のことを考える余裕もなく、常になにかに追われている状態。膨れ上がったスケジュールとやるべきタスクを前に身動きがとれず、どんどん追い詰められていった。つらい、つらい、つらい……。

 残業で遅くなった、ある日の夜。閉園時間だった午後7時30分を過ぎて保育園に駆け込むと、ぽつんと明かりがついた職員室で保育士と一緒に母親の迎えを待つ息子たちの姿が目に飛び込んできた。

「このままじゃいけない」