これは我が家にとっての「新規事業」
張り詰めていた糸がぷつんと切れた。もっと自分に合った生き方があるのでは……。8年間勤めた会社を2018年に辞めた。思い切った決断だった。その後、ハローワークの職業訓練などで得た知識で、複数のブログで子どもの習い事に関する記事などを書き、広告収入を得る仕事をはじめた。日本を離れてもできる仕事だ。
時間に余裕ができ、子どもの面倒を見つつも、自分の心と向き合えるようになった。学生時代に夢見た海外生活への思いがよみがえった。マレーシア移住は、自分なりのチャレンジだ。移住する国を選ぶのにそう時間はかからなかった。親子留学で人気のマレーシアは日本との距離が比較的近く、時差が1時間。アジア人差別の心配がないことや、インターの選択肢が多く、物価も比較的安いことも魅力的だった。
「多民族国家はどういう国なのか肌で感じてみたいなという感じです。渡航の1年ぐらい前から計画をはじめ、そのときに息子たちにも伝えました。海外での暮らしがどんなものなのか息子たちは理解していなかったので、旅行に行くような感覚で、当初は喜んでいました」
夫に伝えると、最初は驚いた様子だった。だが、ようこさんが本気だと知ると「オンラインで毎日電話もできるし、なんとかなるよ」と前向きに応援してくれるようになった。
準備期間を経て、2年間生活できるだけの資金を用意しマレーシアへ渡った。週末は、同じように母子移住した韓国人らとお互いの家で食事をしたり、コンドミニアム併設のプールで子どもを遊ばせたり。異文化に触れる日々に心が満たされているという。
「週末はほぼ1日子どもたちをプールで遊ばせて、親たちはプールサイドでビールを飲んだり、お菓子をつまんだりして、めちゃくちゃおしゃべりをしています」
息子たちは英国式カリキュラムのインターに通っている。一緒に連れてきたのは、「グローバル人材」に育てたいからじゃない。多様な価値観や生き方に触れ、「生きる力」を養ってほしいと考えたからだ。親の役割は、親自身が自分のやりたいことに挑戦し、幸せな姿を子どもにみせること。「自分がやりたいことを成し遂げる力さえあればきっと幸せになれる」と信じている。
SNSを通じて現地の生活を発信していると、「子どもが日本の環境になじめなくなる」「英語も日本語も中途半端になる」などと、批判的な投稿もくる。しかし、ようこさんはそうした第三者の否定的な意見は受け流している。
「息子を一番理解しているのは親のわたしたち。子どもに幸せのあり方を教える親が、幸せじゃなきゃだめだと思う。これは我が家にとっての新規事業。新たなイノベーションを起こす『知の探索』を、わたしたちは海外に出てやっているところなんです」