佐藤 商売はともかく、「それでいいのか?」という義憤のような怒りなのか、これからの歴史教育への不安なのか……この改訂が子どもたちに与える影響は大きいですよ。
というのは、世界史は昔から受験科目として不人気なんです。「名前が覚えにくい」「国や都市の場所がわからない」「どうせ海外に行かないから、学ぶ意味がない」など、ひどい憎まれようで。日本史を選ぶ生徒のほうが圧倒的に多い。
で、新科目の『歴史総合』は、世界史Aと日本史Aを合わせた感じになります。「それならいいじゃないか」と思うでしょう? でも『歴史総合』を簡単に言うと、日本史と世界史をつなげる近現代史のみが範囲になっています。
──そうすると高校では、古代から近代は『世界史探究』『日本史探究』の授業でしか扱わない?
「これを決めた文科省は本当にアホですね」
佐藤 そうです。『歴史総合』の目指す理念自体は、決して悪いものではないです。〈世界史が、近代日本のできる背景に関わっていることを学ぶ〉という趣旨ですから。ただ僕は、世界史を近現代だけで語ることに無理があると思っています。だって、市民革命の話をするときに絶対王政を説明できないし、イスラームテロの話をするときにイスラーム教成立の説明ができない。
それなりのレベルの高校に通う生徒ならば、自分で調べて理解できます。でも、大半の生徒はそれができないので、宗教や民族や政治を既存のイメージで捉えてしまうでしょう。
これを決めた文科省は本当にアホですね。彼らはハイレベルの高校生しか見ていないんですよ。これは、僕がユーテラの世界史授業動画でも話している「社会ダーウィニズム(社会進化論)」、つまり「知識の高い人間が知識弱者を支配する」構造です。このままでいいんですかね、ホントに……。
──世の中には「世界史を学ぶ意味はない」と思う人もわりといます。世界史の魅力とは何でしょうか?
佐藤 一般の方向けに言うと、世界史がわかればニュースがわかります。ニュース自体を理解できていない人は、意外と多いですよね。世界史を学べば、流れてくる乱立した情報を選べるようになり、ニュースの真実がわかると思います。
たとえば、アメリカ大統領選ひとつとっても言えることです。共和党と民主党が歩んだ歴史や2党の特徴、違いを知ったうえでニュースを見るのと、知らずに見るのでは、感じ方が全く違います。後者の人は結局、「自分には関係ないや」とスルーしてしまうことでしょう。
ガザやウクライナなどのニュースも、その背景を知れば、今ある対立の根本がわかりニュースを理解できます。それを多くの人にぜひ体験してほしい。