墨子とカントに学ぶ「非戦」の哲学

第56回

保阪 正康 昭和史研究家
ニュース 社会 政治 国際 ロシア 歴史

「戦争の時代」のいま、江戸期の平和を考える

「真正保守」の復権を目指して、現在の政治情勢と歴史的な教訓をつなぐ地下水脈を辿る作業を私なりにこの連載で続けている。一方、現実の内憂外患は深まるばかりである。内憂と外患は絡み合って、時代の困難を形成している。だが、そのようなときこそ、歴史の教訓を踏まえた「真正保守」の理念を明確に示すことが求められているとも言える。内憂外患のいま、その理念は国際性を備えていることも必要なのである。

 内憂から素描していこう。石破茂首相がさらにスキャンダルに見舞われた。『朝日新聞』が報じた、自民党の新人衆議院議員への10万円分の商品券配布問題に続き、3000万円を超える献金を政治資金収支報告書に記載していなかった疑いを『週刊文春』がスクープしたのである。石破は疑惑を否定したが、告発者は国会内で会見し、求めがあれば参考人招致や証人喚問に応じると明言しており、石破は政治倫理審査会などで弁明すべき局面であろう。

 政治とカネの問題に取り組んできたはずの石破に次々と金銭スキャンダルが露見する事態は、生活に呻吟する庶民の怒りを呼び、自民党への不信を深めたのではないか。米価格の高騰と、江藤拓農林水産相の失言と辞任などもあり、内閣支持率は発足以来最低を更新している。

問題山積の石破首相 Ⓒ時事通信社

 そして、さらに深刻な政治の不在が浮き彫りになっているのだ。参議院選挙を控える情勢下、物価高、低賃金、経済失速などが強いる国民の困窮を前にして、財政規律を重んじて財源なき消費税減税を否定する自民党執行部と、消費税減税や一時的給付金支給などの積極財政に立とうとする野党が対峙している。

 ところが、消費税の意義を説く自民党は、それによって国民生活をどう守るのか、社会保障をいかに拡充するかという説得力のあるヴィジョンを語ることができていない。片や積極財政を推し進めようとする野党のほうも、財源を明確にしているとは言えず、かつて石橋湛山が経済危機における財政出動を肯定したときのような理論作業も欠いていて、選挙に照準を合わせたポピュリズムの誹(そし)りを免れないありようなのだ。

世界は「戦争の時代」に入った

 危機に際して政治が信頼に足る構想力を持てないことが国民の危機感を増大させており、しかもここにトランプ関税という不安定要因がのしかかってくる。

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source : 文藝春秋 2025年7月号

genre : ニュース 社会 政治 国際 ロシア 歴史