「選択と集中」の競争主義が研究をダメにする
日本の科学研究は今、危機的な状況にあります。早急に手を打たなければ、昭和、平成時代に築いた科学技術立国の土台が、令和時代で崩れることになるでしょう。
私が特に危惧しているのは「研究費」の問題です。国は2004年に法人化した国立大学に対する補助金として、運営費交付金を支出してきました。当初この運営費交付金の総額は1兆2400億円でしたが、近年まで毎年一律で1%ずつ削減されてきたのです。
悲鳴を上げる大学に対して、国は「削減分については、他から外部資金を取って穴埋めすればよい」と言います。そんなことを実行できる大学はほとんどなく、経費を削って対応しているのが実状です。
削減される経費の中で大きな割合を占めるのが、人件費です。大学は若い助教のポストといった正規の職を徐々に減らし、新たに若い人を雇えなくなりました。次世代を担う活力ある若者が、大学での研究や教育に携わる機会は確実に減っています。40歳になるまで安定したポストに就けない人が過半数でしょう。
また、大学のポストが減ったことにより教員1人当たりの講義、また法人化に伴う労働安全衛生管理などの研究以外の負担が増えました。そのため彼らの「研究時間」も奪われているのです。
運営費交付金の削減はもともと「贅肉」をそぎ落とすことが目的だったのでしょうが、今は「筋肉」をそぎ落としています。このままでは研究機関、高等教育機関としての大学の足腰は弱る一方です。特に地方の国立大学の状況は深刻です。私が属する東京大学はまだ余力を残していますが、もはや時間の問題です。
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source : 文藝春秋 2019年6月号