人魚も遊ぶ

第170回

中野 京子 作家・ドイツ文学者

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エンタメ アート

一枚の名画をのぞき込んでみると……

✓見えてきたのは「びっくり」

このぷくぷくした可愛い赤ちゃんは、上を見上げて何やら驚いているようだ。何にびっくりしたのだろう? 目を見ひらき、鼻も口も大きく開け、両腕を左右にひろげて、「うっひゃあ!」と叫んでいるようだ。ただし怖がってはいない。きっとこれまで見たこともない、すばらしい何かを見たのだろう。七色のミルク? 巨大なパンダ人形? 自分にそっくりな起き上がりこぼし? それとも本物のアンパンマン?

 


 

人魚も遊ぶ

『人魚の戯れ』

1886年、油彩、150.5×176.4㎝、バーゼル美術館 / 写真提供 Bridgeman images/amanaimages

 人間にとって、海は恐るべき異界である。その拡がりはあまりに雄大で、その怒りはあまりに激烈だ。海を鎮めるために人身御供を捧げた伝承が世界各地に残っているのは、そのためだろう。

 そして異界には異界の住人が棲む。上半身が人間で下半身が魚の「人魚」たちだ。多くの船乗りが、嵐の晩にこの目で確かに人魚を見た、と証言しているのに、ジュゴンと見間違えたのだろうとか、闇を恐れすぎたがゆえの幻覚だ、などと一笑に付されて今に至る。

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source : 文藝春秋 2026年10月号

genre : エンタメ アート