コロナショックによって、日本経済は空前絶後の大ブレーキ。自動車から百貨店・スーパーまで全11業種の現状を総ざらいする。
①自動車
手元資金潤沢なトヨタ。日産は11年ぶりの最終赤字
「コロナショックはリーマンショックより遥かにインパクトが大きい」
トヨタ自動車の豊田章男社長は5月12日、ネットで会見し危機感を露わにした。21年3月期連結決算で営業利益が前期比79.5%減の5000億円になりそうだと発表したのだ。世界的に販売が急減し、グループの世界販売台数の見通しが前年より14.9%減って890万台となり、8年ぶりに1000万台を下回る。
リーマン危機の09年3月期はグループの販売台数が11・7%減り、4610億円の営業赤字に転落した。営業利益が1兆円を下回れば東日本大震災直後の12年3月期以来9年ぶり。売上高は前期より19.8%減の24兆円を見込む。
決算説明会でのトヨタ豊田章男社長
豊田社長は「リーマン時と比べて販売台数の減少は激しいが、企業体質を強化したことで、黒字を確保できる」と語った。この発言にはリーマンショック時の失敗を繰り返さないとの決意が滲み出ていた。今のトヨタのリーマン時との大きな違いは手元資金の潤沢さにある。リーマン危機の際は「1カ月に1兆円の資金が必要で、3カ月で資金繰りが苦しくなる」とまで言われた。財務を担当してきた小林耕士執行役員は現預金などの手持ちの資金が「リーマンの時は約3兆円しかなかったが、今は約8兆円まで増えた。ただ米アップルは20兆円以上ある(とされており)、まだまだ少ない」と述べた。リーマン時に比べ手元資金は2.7倍。月商の3.2カ月分を確保している。お家芸の「トヨタ銀行」と呼ばれる手法で手元資金をここまで積み上げてきたのが活きた。
他の大手はどうか。最大の注目は日産自動車(内田誠社長)。20年3月期連結最終赤字が6000億円を超えた。最終赤字は11年ぶりだ。
日産は昨年7月、22年度までに世界14拠点で計1万2500人を削減する計画を公表。さらに、新型コロナの打撃を受け、スペインのバルセロナ工場を閉鎖するほか、インドネシアなど新興国の生産体制の縮小に着手。国内拠点の再編も検討しており、人員削減の見通しは2万人超を積み増すことになりそうだ。
日産の20年3月期末の手元資金は1.5兆円。事業規模が同程度のホンダ(八郷隆弘社長)の2.6兆円(20年3月期)と比べて1.1兆円も少ない。コロナの影響で売り上げは激減し、手元資金も心細くなってきた。
新型コロナがもたらした世界的危機を乗り越え、どの社が新たな主役に躍り出るのか、注目が集まる。
コロナ不況の行方は!?
②航空
注目は当面の資金繰り。ANAとJAL本当に苦しいのは
航空業界の厳しさの度合いを推し量るのに参考となるのがタイ国際航空の経営破綻だ。発行済み株式の51%を政府が保有するナショナルフラッグキャリアですら破産法に基づく会社更生法の適用を申請した。
ANAホールディングス(片野坂真哉社長)の20年3月期決算は、売上高が前の期に比べ4%減の1兆9742億円、純利益が同75%減の276億円。一方、日本航空(赤坂祐二社長)は売上高が同5%減の1兆4112億円、純利益は同65%減の534億円。ともに無配に転落した。
新型コロナの影響は、今期の方がより強く出る。両社ともに最終赤字が視野に入るが、タイ国際航空の破綻を踏まえると、注目すべきは決算数字より当面の資金繰りだ。
ANAの19年12月末の手元資金は3901億円。20年3月末は2386億円と1500億円減少した。航空機リース料や人件費などで、毎月1000億円のキャッシュアウトがあるという。一方、日航の今年3月末の手元資金は3291億円で、昨年12月末の3264億円に比べ増えた。コロナ禍が顕在化した3月末までに577億円を調達したのが大きい。キャッシュアウトは毎月600億〜700億円。こうして見ると手元資金が日航よりも少なく、資金流出額が大きいANAが厳しいように映る。
ANAは早々に今年度の採用活動を一時中断すると発表。傘下の全日本空輸は今年度の一般社員の夏季一時金を半減し、約70億円のコストを削減する方針を労働組合に伝えた。ただ「あれは万が一に備えたポーズ」と日航幹部は言う。「あらゆる手を使っている姿勢を対外的に示すことで、公的支援を受けやすい環境整備をしているのだろう」(同)
対する日航は10年1月に会社更生法の適用を申請、公的資金の注入で再生した経緯があるため「2度目の公的支援のハードルは高い」(関係者)。資金流出抑制策がANAより出遅れるのは、手元資金が相対的に手厚いからではなく、ANAのような「ポーズ」をとってもそれが公的支援を受けやすい環境に結びつかないとみているからだろう。総合的に評価をすれば、ANAが有利な立場にいる。
③鉄道
利用者94%減の衝撃。新幹線頼みJR東海の危機
JR東海(金子慎社長)は、GW期間を含む4月24日〜5月6日の東海道新幹線や在来線特急の利用者数が前年同期に比べ94%減ったと発表。コロナウイルスの感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言による外出自粛要請の影響がもろに出た。
20年1〜3月期連結決算は、売上高が前年同期比16%減の3966億円、営業利益は61%減の442億円、純利益は85%減の97億円だった。
減益の主因は新幹線の利用客の急速な落ち込み。20年1月まではサラリーマンの出張や訪日外国人の需要が追い風となり、前年同月比プラスで推移してきたが、2月以降つるべ落としのように利用客が減った。
1〜3月で見ると新幹線の運輸収入は2552億円と2割減。4月の輸送量は前年同月比で90%減。1カ月で1100億円の運賃収入減少だ。4〜6月期は過去最悪の決算となるだろう。金子社長は「会社発足以来の厳しい局面」と話した。
JR東海の営業利益全体でみた場合、運輸事業の割合は8割弱。JR東日本、西日本の同6割台に比べて運輸事業の比重が大きい。
これは東海道新幹線が好採算のためで、裏を返せば東海は新幹線一本頼み。それだけに運賃収入の落ち込みが直撃した。JR東海は21年3月期の業績予想・配当を未定とした。東日本、西日本も同様であるが東海はリニア中央新幹線の投資が重く、東日本、西日本ほどホテルや駅ビル、商業施設の展開をしてこなかった。そのツケが回ってきている。
④化粧品
メーキャップ系はほぼ壊滅。資生堂の「改革」の行方は?
「コロナ後も需要が回復するとは到底思えない」。化粧品業界関係者が項垂れる。当然だろう。
外出時のマスク着用が半ば義務と化し、オフィスはじめ職場などでもマスク、マスク、マスク……。何ら面白みのない白や黒の布が人々の顔を覆う。女性からすればマスクの下に化粧をしても「無意味」だ。
なかでも「きつい」とされるのが口紅だ。相対的に単価が高く、「口紅経済」と呼ばれるほど業界にとってはドル箱だったが、いまや不要品扱い。大手メーカーの美容部員からは「スキンケア等の基礎化粧品はともかく、メーキャップ系はほとんど壊滅状態」といった悲鳴も上がる。
各社の今年1〜3月期決算も衝撃的だ。最大手の資生堂(魚谷雅彦社長)は売上高が前年同期比17.1%も落ち込んで純利益が14億円と同95.8%のダウン。2位・花王(澤田道隆社長)の化粧品事業は592億円と同12.1%の減収で、部門営業利益は同98.3%縮小。わずか1億円と「水面下すれすれ」(幹部)の水準に沈んだ。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2020年7月号