5月11日、フランス全土に発出されていた「外出禁止令」が解除された。
3月、新型コロナウィルスの感染拡大の嵐が世界中に吹き荒れた結果、フランスのみならず、各国が都市封鎖=ロックダウンに踏み切ってからほぼ2ヶ月。フランスに先立って、ヨーロッパで最も深刻なコロナ禍に見舞われたイタリアも、5月4日に外出規制緩和となった。スイス、オーストリア、ドイツ、スペイン……政府の号令一下、ドアを閉めて家の中に引きこもっていた人々は、ようやく施錠が解かれてほっと一息ついているに違いない――と、3月下旬から2週間パリの自宅でロックダウンを体験した者として、ひとまずこちらも胸を撫で下ろした。
ところが、ほっと一息どころか、パリっ子たちは、さっそくマスクを外して深呼吸をしている、との情報を、パリに暮らす日本の友人に聞かされた。
パリの北東のサン=マルタン運河沿いにあるプロムナードは、夏になると大勢の若者が繰り出し、しゃべったり歌ったり踊ったり、それはもうにぎやかに過ごすのが風物詩となっている。ロックダウンの真最中には運河沿いの遊歩道に人っ子ひとり見当たらなかった。外出禁止の発動には厳しい罰則と補助金などの補償がセットになっていたから、生活の自由を奪われることに対してなんとしても抵抗するはずのフランス国民も、さすがに遵守しているようだった。が、解除になったとたん、どっと繰り出し、いつもの春と変わらぬ光景になったという。しかも誰ひとりマスクをつけていない。2ヶ月も鬱屈した日々を送っていたのだから、解放感を味わいたくなるのは当然だろうが、病院には闘病している人たちや必死に看護している医療従事者がまだまだいるのに……。運河近くに住み、生真面目にマスク着用を貫いている友人は、恐ろしくて再び出歩けなくなってしまった――ということだった。
私はロックダウンが始まったときパリにいて、潮が引くように街中から人影が消え、通り沿いの店舗やカフェがシャッターを下ろし、ゴースト・タウンのように静まり返った情景を目の当たりにしたので、再びパリの街が活況を呈するのを、喜びたいような苦々しいような、複雑な思いで受け止めている。
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source : 文藝春秋 2020年7月号