在宅医療と「地域のきずな」があれば大丈夫
社会の高齢化が進めば、医療費は増える――誰でも知っている常識です。国の2019年度予算案は、医療や介護などの社会保障費が34兆円を超え、過去最高を更新しました。そのうち、高齢化に伴う自然増が5000億円と計算されています。
ところが、高齢化率日本一の市である北海道夕張市では、2007年の財政破綻後、高齢者1人当たりの医療費が減少したのです。高齢者の数も高齢化率も増えていたのに。
夕張市では市営事業の見直しが行なわれました。171床の市立総合病院は閉鎖され、公設民営の19床の診療所と40床の介護老人保健施設になりました。勤務する医師は2〜3人に減り、外科や小児科の専門医はいなくなり、救急指定病院もありません。開業医数人を加えると、市内の医療機関のすべてです。
病院がなくなれば受診の機会も減り、結果として医療費が減っているのだろうと思われるかもしれません。ただ、ここで重要なのは、医療費は減っているのに、市民の死亡率は上がっていないし、健康被害も増えていないこと。つまり、病院に行かなくても住民の健康状態は変わらなかった、という現実です。
夕張では、予防医療を重視し、在宅医療と訪問診療と介護を充実させることで、従来の病院依存から「生活を支える医療」への転換に成功したのです。2017年ついに高齢化率が50%を超えた夕張で、お爺ちゃんお婆ちゃんが病院へ行かなくても元気に暮らしている姿は、これから日本中に訪れる超高齢化社会のモデルとなるに違いありません。
森田洋之医師(47)は、一橋大学経済学部を卒業後、宮崎医科大学で学んだ。夕張の医療を立て直した故・村上智彦医師に師事し、2009年から夕張市立診療所に勤務。12年から13年は所長を務めた。現在は鹿児島市在住で、南日本ヘルスリサーチラボ代表。
著書『破綻からの奇蹟〜いま夕張市民から学ぶこと〜』や、『医療経済の嘘 病人は病院で作られる』で経済学的見地から医療の実態を分析し、今後の在るべき姿を問い続けている。
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source : 文藝春秋 2019年2月号