昨年、高校生直木賞というものをいただきました。
高校生直木賞。
ご存じでしょうか。
本家直木賞の直近1年間の候補作の中から、高校生によってあらためて選ばれる賞。
私は、あまりよく知らなくて、ぼんやりと、高校生が、本家の直木賞とは違うものを、“我らが直木賞はこれだ!”と選ぶんだな、と認識していました。
ということはすでに直木賞をいただいている拙作が選ばれることはないはず。可能性はなくはないけど限りなくゼロに近いだろうと思っていて、ですから、選考会当日、受賞の連絡がきたとき、驚いたのなんの。
そもそも拙作『渦 妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 魂(たま)結び』は、江戸時代の大坂・道頓堀が舞台。しかも現代の高校生にとってまるでなじみのない人形浄瑠璃(文楽)の世界を描いた小説で、主人公は浄瑠璃作者・近松半二(近松門左衛門ではなく、マイナーな近松半二)だし、全編にわたって関西弁だし、高校生たちがこの本を選ぶとは到底思えなくて、驚くと同時に、それはどういうことなんだろう? と俄然興味が湧いたのでした。高校生直木賞って何? どんなふうに選考しているの?
彼らの感想はとても面白くて、というか斬新で、部活動の人間関係に引きつけて読んでくれたり、アニメやドラマのエンタメの作り手たちになぞらえてくれたり、へー、そんな読み方もできるのか、と私には、かなり刺激的でした。
というわけで、本年度、選考会前のトークイベント(前年度の受賞者がやることになっている)のあと、選考会を傍聴させていただくことにしたのでした。せっかくの機会だし。
5月末、コロナ禍ゆえのリモート選考会でしたが、全国各地から参加した32校が、前半、A班とB班に分かれて候補作を絞り、後半、全参加者による討論で受賞作を決定するという流れ。
モニターに映しだされるたくさんの高校生たちを見ながら、こんな形で選考なんてできるのかなー、と思うまでもなく、さすが今時の若者たち、手慣れたもので、リモートに臆するどころか、チャット機能なんかも自在に使いこなしている。あたふたしている人など誰もいない。
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source : 文藝春秋 2021年9月号