日本人初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹(1907~1981)は、物理学の研究者にとどまらず真の「学者」であった。湯川の「追っかけ」を自認する宇宙物理学者・佐藤文隆京都大学名誉教授が語る。
佐藤氏
湯川秀樹を「素粒子物理学に貢献した」と書く人がいるのですが、それは間違いです。湯川は素粒子物理学の「開祖」です。彼の「中間子理論」は後に修正されましたが、それが突破口になり素粒子物理学が始まった。欧米でもガリレオやアインシュタインに並び称される偉大な物理学者であることを、日本人はもっと認識していいと思います。
しかし、物理学だけで湯川の全体を語ることはできません。子どもの頃、祖父から漢籍の素読を指導されただけあって、専門だけに特化した「研究者」ではなく、文系的な知識にも優れた「学者」でした。私も湯川に憧れて、山形から京都に出てきて、京大基礎物理学研究所の所長にもなったのですが、湯川はとても奥深く、人物として理解するには相当の教養が必要でした。湯川が「知楽魚」という荘子の言葉を好んで色紙に書いていると知って、荘子の本を買いに走ったこともあります。
湯川秀樹
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source : 文藝春秋 2022年1月号