人は万年筆の美しさと書き味を知ったとき、はじめて大人になる。メールからは生まれないその荘厳な文化を、今こそ取り戻せ。
写真=長山一樹(S-14)、スタイリング=石川英治(tablerockstudio)、撮影協力=山の上ホテル
Montblanc(モンブラン)
1952年に誕生した万年筆の王者「マイスターシュテュック 149」。18金ロジウム仕上げのペン先やプレシャスレジン製の胴軸といった、高級機械式時計ばりの造形美。書き手の意思そのものを伝える軽快な書き味。人生を共にするにふさわしい一本だ。¥108,900/モンブラン(モンブラン コンタクトセンター☎0800-333-0102)
万年筆で取り戻す 手書きの誇り
ときは1951年9月8日。サンフランシスコ講和会議に臨んだ吉田茂は、その署名にあたって、あえてアメリカが用意したものではなく、自らの胸ポケットに挿した万年筆を使ったという。その動機には諸説あるが、いずれにせよ万年筆という道具には、書くという行為の厳粛さを託すにふさわしい、機能と美しさが秘められている。
書き手の思考を驚くほどスムーズに文字に伝える、滑らかな書き味。書くほどになじみ自分だけの文字へと育ててくれる、豊かな表現力。そして手にした瞬間から心を昂ぶらせる、職人仕上げの芸術的なペン先やボディ……。今後どれほどSNSが進化しようとも、万年筆から生まれるコミュニケーションを凌駕するものはないだろう。世界中から選りすぐった個性あふれる名品の中から、あなたの誇りを託せる一本を選んでいただきたい。
自身の万年筆を使い、講和条約に署名する吉田茂。もともと机上に用意されていたのは、アメリカ製であるシェーファーの万年筆だ
©Bettmann/Gettyimages
Maruzen(丸善)
夏目漱石が愛用した英国の万年筆「オノト」を、輸入元であった丸善がリメイク。14金製のペン先に施された龍の刻印は、なんと漱石の原稿用紙に使われていたデザインだ。明治期の文豪の気分に浸れる、ロマンティックな万年筆。「丸善ストリームライン オノトモデル」¥35,200/丸善(丸善日本橋店☎03-6214-2001)
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source : 文藝春秋 2022年3月号