末期がん患者が望む「最期の晩餐」

大特集 理想の介護と最期

青木 直美 医療ジャーナリスト
ライフ ライフスタイル

食へのこだわりが生きる力になる

食事に「工夫」が ©時事通信社

 ある晩のこと。一人の女性のもとに、黒塗りの盆が運ばれてきた。お造りの盛り合わせと天ぷら、鶏肉抜きの茶碗蒸しにごはん、デザートのバニラアイスクリームという、ボリュームたっぷりの和食御膳だ。

 お造りの盛り合わせは、大根を筒状にくり抜いて器に見立ててあり、3種類の切り身と薄くスライスしたキュウリが品よく収まり、小さな籠の上に乗せられている。涼しげで特別感のある盛り付けは、調理師からのささやかなサプライズだ。

 カラッと揚がった天ぷらは、大きなエビに、カボチャ、飾り包丁が入ったナス、シイタケと大葉。さらに、出汁のきいたプルプル食感の茶碗蒸し。食器はその料理が栄える形状や色合いの陶器が使われている。

 設えは旅館の夕食のようだが、これは淀川キリスト教病院(大阪市)の9階、ホスピス緩和ケア病棟での光景だ。ここでは、余命2、3カ月と診断された末期がん患者が、残された日々を過ごしている。現在の平均在院日数は3週間ほど。「最期は家で過ごしたい」と途中で在宅医療に切り替える人もいるが、8割近くはここが終の棲家となる。

 毎週土曜日の夜、この緩和ケア病棟の患者だけに、特別な晩餐が振舞われる。前日に患者から一人ずつ聞き取った「今食べたい料理」が「リクエスト食」として用意されるのだ。

 冒頭の和食御膳も、末期がん患者の女性のリクエストによるもの。夕食が届けられると、女性は寝起きで声が出にくいのか言葉を発することはなかったが、表情から驚きや嬉しさが伝わってきた。ベッドから起き上がると、初めて見るリクエスト食に目を見開き、顔をほころばせた。

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source : 文藝春秋 2018年07月号

genre : ライフ ライフスタイル