後悔しないためにまず人間の性を知ろう
買い物でお得そうな言葉につい乗せられてたいして欲しくないモノを買ってしまったことはないだろうか。行動経済学は、こういった意志が弱く、合理的とは言えない、感情に振り回される私たちを出発点に経済を分析していく。人間の非合理的な行動原理を解明するので、「愚かな消費」を防ぐアドバイスもできる学問だ。ここからは買い物の失敗がなぜ起こるのかを行動経済学の見地から探り、それを避ける処方箋を示していこう。
なぜ衝動買いをするのか
「期間限定」「閉店セール」といった謳い文句に心動かされ、つい目先のお得感に引かれて、後々のことを十分に考えずに買ってしまったり、ダイエットをしているのに、つい目の前のお菓子をつまんでしまうことは、よくあることだ。
私たち人間は、今我慢すれば将来により大きな利益が得られるのに、目先の小さな利益に飛びついてしまう。人は目先の誘惑に弱く、将来の価値を大きく割引いてしまうという性向を持っている。これは人々が目先のことに捕われ、将来を軽視することを意味し、「現在志向バイアス」とか「近視眼性」と言われる。
将来の価値を大きく割引いてしまうと、下の図のような不合理な現象が生じることがある。図には将来の小さな利得Aとさらに将来の大きな利得Bのそれぞれが手に入る時点での効用と、それらの割引された現在の効用が示されている。最初はBの効用が大きく、Aの効用は小さいとみなすが、時間が経ってAの実現が目前になると、効用の大小が逆転してAがBより大きくなることがある。この現象は、「時間的非整合性」と呼ばれている。たとえば、前の晩に寝るときには「明日は必ず朝6時に起きよう」と思っていても、いざ朝6時になるとなかなか起きられなかったり、「この仕事は明日には必ずやる」と誓ったのに、当日になるとまた「明日には本当にやるから、今日は遊んでも問題ない」と考えて、結局ずるずると先に延ばしてしまったりすることだ。早起きすることがBという高い効用をもたらすことはわかっているのに、直前には眠さに負けてAの方が魅力的になってしまう。このような行動こそが、禁煙やダイエットの失敗やカードの使い過ぎによる自己破産の大きな原因だ。目前の小さな利得に目を奪われて、後で得られるはずの大きな利得を失ってしまうのである。
このような目先の誘惑に負けやすい性質は、人類の進化の過程を考えれば、ごく当然だと考えられる。人類が進化してきた環境では、目の前においしい食料があればとりあえず確保するのが適応的、つまり進化論的には合理的だからである。美味しいものがすぐ手に入るのに我慢して、次にしようなどと考えたら、他の人や動物に取られてしまうかもしれない。それは下手をすると命にかかわる。また、貯蔵手段がないから将来のために取っておこうと考えるのも意味がない。そこで、将来を軽視し、目先の利益を重視する性向を、人は生得的に持っているのである。
大事なのは、目先のことにとらわれることなく、長期的に考えることである。欲しいと思っても、少し時間をおくと、熱が冷めて欲しくなくなることもよくある。
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source : 文藝春秋 2018年07月号