民営化から10年。郵政グループに残された課題とは?
驚きの発言だった。「民営化は始まったばかり。富士山の1合目、2合目にしか到達していない」。日本郵政の社長・長門正貢氏(68)が記者会見で“郵政民営化”の歩みを振り返ってこう語ったのだ。
2007年10月1日、小泉純一郎首相の下で成立した郵政民営化関連法に従い、郵政事業の民営化が行われた。日本郵政公社は解散、日本郵政を持ち株会社とし、傘下にゆうちょ銀行、かんぽ生命保険、郵便事業会社と郵便局会社(2012年に2社が統合して日本郵便に)の4つの事業会社が設立された。
あれから10年が経ったが、なぜまだ「1合目、2合目」なのだろうか。その発言の真意を、2016年4月から五代目の社長を務める長門氏に聞いた。
本当は会見で「民営化は4合目、5合目まできています」と言っても良かったと思っています。2007年の民営化以降、私たちも様々な改革を推し進めてきましたから。
ただ、いかんせん日本郵政グループは規模が非常に大きい。グループ全体の従業員数は約40万人、総資産は約290兆円にもなる。また銀行、保険、郵便、不動産など業務は多岐にわたっています。
勉強でたとえるなら、国立大学の受験のようなもの。必修科目が多く、英語と数学だけやっていればいいというわけではないのです。色々な科目でコツコツと積み上げていっているけれど、いまはまだ十分に成果が数字として表れていない、という時期なのです。
外部環境の問題もあります。例えばゆうちょ銀行。資産209兆円と、日本最大の銀行です。ただ“民業を圧迫してはならない”という理由から融資業務が制限されており、収入のほとんどを資産運用に頼らざるを得ない。それゆえ、いまの日本銀行による超低金利政策の影響をもろに受けてしまうのです。
また郵政民営化法では、政府が持つ日本郵政株の比率を早期に3分の1まで減らすこと、日本郵政が保有するゆうちょ銀行とかんぽ生命の株をまずは50%程度となるまで段階的に売却することとしていますが、将来的にはすべて売却することを定めています。ただこれも2015年11月に上場し、つい先日、日本郵政株の第2次売出しをしたばかり。まだまだこれからです。
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source : 文藝春秋 2017年12月号