美智子さまが訳された英詩のこころ

御所で見つかった“小さな詩集”を独占公開

渡邉 允 元侍従長
ニュース 皇室

四〇年にわたって取り組まれる英訳詩の世界。詩人たちとの知られざる“交流”とは──

美智子さま(宮内庁提供)・見つかった詩集 ©文藝春秋

 ここに一冊の不思議な詩集がある。

 新書位の大きさだが、厚さは二二ページしかない。表紙は落ち着いた淡いクリーム色。見開きの頁の左側には、六篇の日本語の詩「泉」、「垣根」、「初夏抒情」、「朝は」、「葬式」、「落葉」が一頁にひとつずつ載せられており、右側にはその英訳が、日本語の詩と左右対称の形で置かれている。表紙、扉、謝辞などは全て英語で書かれていて、扉には、「『墓碑銘』から選んだ新美南吉の詩」「美智子皇太子妃訳」「武蔵野美術大学 東京 一九七七」とある。

 この詩集は御所の書庫に大切に保管されていたものだが、その内容が公にされたことはなく、これが作られた経緯、作者などについても、はっきりしたことは分からなくなっていた。皇后さまご自身も、東京英詩朗読会という会の関係でどなたかから頂かれたという以外には定かな記憶を持っておられない。そこで、この小冊子に残された僅かなヒントを頼りにいろいろと調べた結果、次のようなことが分かってきた。

 皇太子妃殿下、すなわち現在の皇后さまは、昭和五〇年(一九七五)から東京英詩朗読会という小さな会に招かれて参加されるようになった。その会の会員であった武蔵野美術大学の内藤秀雄教授は、妃殿下が新美南吉の詩とご自身でなさったその英訳を朗読なさるのを伺い、それらを小さな詩集にまとめて差し上げられないかと考えた。

 そこで、大学で商業デザインを教えている同僚を介して、学生の一人に、大事なプロジェクトだがやってみないかと相談し、その学生が丁寧に精魂込めてデザインから印刷、製本までを手掛けて出来上がったのがこの小冊子だったのである。制作には時間がかかって卒業間際にようやく完成し、その学生の卒業制作となって、その年の優秀賞を受賞した。内藤教授は既に故人となっているが、学生であった平井俊雄氏は健在で、故郷の中学校で美術を教えている。

 小冊子に収められた六篇の詩は、皇后さまによる英訳とともに、以下に掲載されている(英訳はその後二、三の手直しをなさっている)。

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source : 文藝春秋 2015年01月号

genre : ニュース 皇室