悪は犠牲を払ってでも断ち切るしかない/『ねじまき鳥クロニクル』村上春樹

ベストセラーで読む日本の近現代史 第82回

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官
ニュース 読書

 新型コロナウイルス対策の過程で、国家機構とマスメディアの関係に潜む宿痾が顕在化した。

〈週刊文春は(五月)二〇日、東京高検の黒川弘務検事長(六三)が新型コロナウイルスによる緊急事態宣言発令下の今月初め、東京都内の知人の新聞記者の自宅で、賭けマージャンをした疑いがあるとニュースサイト「文春オンライン」で報じた。/記事によると、マージャンには産経新聞社の記者二人と朝日新聞社の元記者の社員が参加。黒川氏は一日から二日未明にかけ、産経新聞社の記者の自宅で約六時間半にわたり滞在し、記者の用意したハイヤーに乗って帰宅した。東京都では緊急事態宣言を受け、都が外出自粛を呼びかけていた〉(「日本経済新聞」電子版5月20日)

 週刊文春の報道に対して朝日新聞が迅速に反応した。

〈朝日新聞社広報部は二〇日、東京本社勤務の50代男性社員が黒川氏とのマージャンに参加していたと認め、金銭を賭けていたかどうかは調査中と説明した。そのうえで「勤務時間外の個人的行動ではありますが、不要不急の外出を控えるよう呼びかけられている状況下でもあり、極めて不適切な行為でお詫びします」とコメントした〉(前掲「日本経済新聞」)

 当初ノーコメントだった産経新聞も井口文彦・東京本社編集局長の見解として〈本紙は、その取材過程で不適切な行為が伴うことは許されないと考えています。そうした行為があった場合には、取材源秘匿の原則を守りつつ、これまでも社内規定にのっとって適切に対処しており、今後もこの方針を徹底してまいります〉(「産経ニュース」5月20日)とのコメントを出した。

検察とメディアの共犯関係

 情報源に深く食い込んで、人間的信頼関係を構築することは新聞記者の重要な仕事だ。その目的は、「国民の知る権利」に奉仕するためだ。ここで重要になるのは記者の倫理だ。検察官を含む官僚にとって、メディアは自らの業務を遂行する上で利用価値がある。官僚は記者と「外部に知られては困る」ような「共犯関係」を作り出すことで、メディアを操ろうとする。メディアとしても、このような「共犯関係」を官僚と作り出せば、情報が一層取りやすくなる。賭けマージャンは、官僚、記者の双方にとって魅力的な道具なのである。

 官僚(国家公務員)が違法行為を行ってはいけないのは当然だ。記者も取材にあたって守らなくてはならない倫理基準がある。朝日新聞の社員は現在は記者ではないので、取材の必要でマージャンをしたという理屈も通らない。産経新聞も朝日新聞も組織防衛を始めている。両者の社内調査で、記者や社員が賭けマージャンを行っていたという事実が判明した。法務省の動きも速かった。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2020年7月号

genre : ニュース 読書