外交ではレーガン米大統領と蜜月関係を結び、内政では国鉄民営化を実現した中曽根元首相(1918〜2019)。約5年の在任期間は当時、異例と言われた。亀井氏が目の当たりにした「凄み」を振り返る。
政治家なら信念の貫徹を強調したくなるものだが、見た目は「威風堂々」なのに、中曽根先生は「風見鶏」と自らを称して憚らなかった。
その凄みを肌で感じたのは、1980年のハプニング解散直前だな。田中派にバックアップされた大平首相の退陣論が強まった時のことだ。
俺がいた派閥の領袖、福田赳夫と中曽根氏とは旧群馬三区で「上州戦争」を争うライバルだが、この時だけはチャンスとみて手を組み、野党の不信任案に対し欠席を決定。脱落者が出ないよう会議室にこもる俺たちの前に現れたのが中曽根先生だ。
「勇気ある行動だ」と称賛してくれたから胸が熱くなった。が、それも束の間、側近に連れ出されたあと本会議場に入り、反対票を投じた。田中派支持だ。一同唖然としたよ。
ただ、ここで主流派に転じたことで2年後の総理就任につながったんだから、風を見切っていたんだな。
風見鶏だったからこそ、5年も政権を続けられた。しかし、日米地位協定の改定には手をつけなかった。ドイツやイタリアはやったのに。
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source : 文藝春秋 2023年1月号