「文藝春秋」が創刊された百年前の世相は現在と酷似していたのではないか。百一年前には、朝日平吾が安田善次郎を「君側の奸」として暗殺し、同じ年に原敬暗殺事件があり、間を置いて血盟団事件、5・15事件、2・26事件と政治テロが続いた。歴史が繰り返されるなら、安倍元首相暗殺から政治テロが連鎖し、戦争に突入することになる。すでに政治の劣化は末期症状を呈し、やけっぱちの戦争にでも打って出る以外、権力を維持する方法はないと為政者は思い始めている。
自民党はあらゆることを国会の審議を経ず、閣議決定で決めてきたが、その閉鎖的な意思決定プロセスはソビエト時代末期、ナチス時代、ネオコンに牛耳られていたブッシュ政権時を思わせる。政策決定に反日組織の権化たる統一教会が深く関与している政党が国民を代表できるはずもない。政治家としての存続を保障してくれるなら、反日カルトにだって喜んで所属する。それが欲得ずくの政治家の本音であろう。
関係を断つと宣言する以上、自民党は統一教会への解散命令と、関係議員の辞職を断行すべきである。これを機に完全に膿を出し切り、世代交代と再出発をアピールした方が復活へのショートカットとなる。歴代の政権と癒着し、労働市場、オリンピック村、原子力村、神宮の森開発、軍産複合体や国際金融への奉仕などを推し進めてきた政商、企業も一掃されたら、多少は心も晴れるが、かなり昔から自民党では自浄機能が機能しておらず、改革のリーダーシップを取る人材はすでに枯渇している。
二〇〇〇年代に官僚制資本主義とも、株式会社日本政府ともいわれた利権構造に鋭くメスを入れ、関係者から疎まれ暗殺された民主党の故石井紘基氏が目指した真の行政改革から、二十年遅れではあるが、その遺志を継ぐことだってできるだろう。
政権は長きに渡り、税の無駄遣いをし、福祉を切り捨て、弱者貧者をとことん追い詰めてきた。しかし、いくら違法なことをやっても、保身を優先する検察や裁判官の協力もあって罪に問われることもなく、政治に無関心な有権者の沈黙の同意により、腐敗政治がいつまでも続いた。アベノミクスに期待した有権者は裏切られ、いよいよ貧困と飢餓の恐怖が迫ってきたわけだが、逆にジリ貧になった方が世論操作はしやすくなるという法則もある。腐敗した政治権力はここぞというタイミングで賃金を上げ、雇用を増やし、生活の安定を約束すれば、支持率を上げられるからだ。しかし、現政権はそれすらも怠っているので、支持率が下がるのは当然だ。定期的な政権交代が起きなければ、腐敗が進み、貧困が深刻化することだけは確かだ。これまで統一教会の組織票の上積みでギリギリ当選していた議員が全員落選し、野党議員が議席を得るのだとすれば、政権交代の可能性は大いにある。
問題はその先である。野党共闘が功を奏し、政権交代が起きたとしよう。リベラル勢力が福祉や雇用で国民優先の政策を採用できても、彼らが外交、安全保障政策で独自色を打ち出すのは至難の業となりそうだ。長年、日本が自明としてきた対米従属の見直しを図ることは不可能という刷り込みをどう打破するか、それが問題となる。
世界的に見て、民主政権は、何処でも反米になる傾向がある。東欧諸国や中南米で民主的な政権が樹立されようとした瞬間にCIAなどが介入し、その動きを潰し、逆にマフィアと手を組んで、傀儡政権を立ち上げる。アメリカが後押ししてきた民主化も所詮、マフィア化の別名に過ぎなかったことは岸信介、笹川良一ら、統一教会やCIAとの癒着で私腹を肥やした面々を見てもよくわかる。
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source : 文藝春秋 2023年1月号