世界屈指の火山列島であり、そのために災害を被る日本。しかし、火山が生み出す温泉は「古来、この国に多様な恩恵をもたらしてきた」と歌人で小説家、実業家の小佐野彈氏は語る。温泉文化に通じ、温泉ソムリエの資格も持つ小佐野氏より指南を受け、力に富む湯を巡る。
世界で類まれな総合力の高い名湯がある(文・小佐野彈)
日本列島は地震と火山のメッカであるプレート境界上にある。地震や噴火といった災害が多い国の暮らしは厳しいが、いいこともある。火山性の土壌は地熱と相まって肥えやすく、農耕に最適だ。粒が細かい火山灰で濾過された川の水は淀むことなく海へと注ぎ、豊饒な海の幸を育む。しかし、地震大国・火山大国での暮らしにおける最上の恵みは「温泉」だろう。
幼いころ、実家の屋上から富士山を日がな眺めていた。軽井沢の別荘から望む、煙たなびく浅間の山容には、畏怖に近い感情を抱いていた。火山はいつも僕の傍らにあった。そして気づけば、火山の副産物である「温泉」にどっぷりハマっていた。
世界各地に、温泉はある。しかし、100以上の活火山があり、網目のように走る断層が地質を分かつ日本は、世界的に類を見ないほど泉質が多様で、源泉数は2万を優に超える。また、飲泉や医療中心の温泉利用が多い欧米に対して、日本では温泉利用の目的や方法も多様だ。湯治や行楽にくわえ、「外湯」など地域共同体の交流の場としても温泉は活用される。神事や仏教とのつながりも多い。弘法大師は多くの開湯伝説で知られる。
日本には優しい単純温泉から強烈な酸性泉や放射能泉までさまざまな湯がある。しかし万人にとって「効く温泉」や「いい温泉」はない。「温泉力」は「総合力」であり、温浴効果・転地効果・薬理効果という3つの効果のバランスが大事だ。その人の心身の状態によっても、湯は毒にも薬にもなる。脳血管障害や高血圧を患う人、あるいは高齢者にとって酸性泉など強い湯の高温浴は危険であるともいわれている。また、不眠や自律神経疾患を持つ人にも優しいぬるめな単純温泉が合う場合が多い。
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source : 文藝春秋 2023年1月号