「別格の肉体言語」チャールズ・チャップリン

スターは楽し 第199回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画
サーカス

 チャールズ・チャップリンが亡くなって45年が経った。彼の没後に生まれた人の数が何十億にものぼるのかと思うと、時の経過を否応なく感じる。

 かつて、インターネットはもちろん、テレビさえ存在しなかった時代に、チャップリンは「世界一有名なスター」と呼ばれた。彼を映したフィルムの缶は、欧米のみならず地球の隅々にまで運ばれ、観客の熱い視線を集めていた。

 彼の映画はサイレントだった。言葉を使わない以上、言葉の壁など存在しようがない。その身振りに、表情に、体技に、観客はダイレクトに反応した。

 チャップリンも強く自覚していたはずだ。私の武器は、第一にリトル・トランプ(小さな放浪者)の外見だ。第二に、その動きだ。笑いも涙も、このふたつで十分に引き出すことができる。私の武器は、スピーチではない。

 だからこそチャップリンは、トーキー映画に対して逡巡と抵抗を重ねた。『サーカス』(1928)、『街の灯』(1931)、『モダン・タイムス』(1936)……円熟期に撮られたチャップリン作品のなかに、純然たるトーキーは一本もない。史上初のトーキー映画『ジャズ・シンガー』(1927)はすでに公開されていたが、チャップリンはこの流れに乗らなかった。『サーカス』の冒頭に流れる彼自身の歌声は、69年にこの映画が再公開された際に付け加えられたものだ。最初に声を聞かせたのは、『モダン・タイムス』の終盤、無国籍のデタラメ語で〈ティティナ〉を歌う場面である。

 チャップリンは1889年、ロンドンに生まれた。両親は芸人だが、チャップリンが生まれて間もなく家庭は崩壊している。離婚後、父は早逝し、母は長期入院を余儀なくされた。チャップリンは5歳のころからヴォードヴィルの舞台に立ち、アメリカ公演の際に注目される。

 短篇映画への出演は1914年からだ。だぶだぶのズボンに窮屈な上衣。山高帽にドタ靴にステッキという基本スタイルは、早くもこの時期に確立されている。ちょび髭を伸ばしたのは、若すぎる年齢をカムフラージュするためだった。

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source : 文藝春秋 2023年1月号

genre : エンタメ 映画