トゥシェティで感じた温もり

巻頭随筆

ティムラズ・レジャバ 駐日ジョージア大使
ライフ ライフスタイル
ティムラズ・レジャバ氏 ©共同通信社

 生物学者だった父親の仕事の関係で、4歳から祖国・ジョージアと日本を行き来する生活を送っていました。15歳の時には日本の高校に入学しますが、その頃から自らのアイデンティティについて深く考えるようになりました。

 そこで気づいたのは、どれだけ長く日本に住んでも、自分はあくまでジョージア人だということです。日本で生活していると、どうしても「自分は外国人だ」と思わされることが多く、“外側”からしか日本のことを見ることが出来なかったのです。

 だからこそ、中途半端に関わるのではなくて、もっと真剣に、この国に向き合いたいと思うようになりました。せっかく日本とのつながりがあるのだから、このつながりを生かせるようになりたい、と。高校卒業後は海外の大学で学ぶ選択肢もありましたが、早稲田大学国際教養学部への進学を決めたのでした。

 私が日本の心を理解するうえで、重要な手段の一つとなったのが文学です。大学ではゼミの他にも、村上春樹さんの論評で知られる故・加藤典洋先生の講義を受講しましたが、文学のみならず、日本の戦後のあり方にかんしても深く学ぶことが出来ました。

 文学には作者の言葉や思いだけではなく、その国の文化や慣習、集団の知識が詰まっている。安部公房、中島敦、室生犀星、村田沙耶香、朝井リョウなど、様々な作家の作品に触れてきましたが、芥川龍之介と夏目漱石は最も影響を受けた作家です。

 自然と文章を書くこと、言葉で表現することにも、憧れを抱くようになりました。創作の授業には熱心に参加しましたし、大学のサークルは早稲田文芸会に所属。それと同時に、物を書いていた友人やデザイナーを集め、電子書籍を刊行する学内初の文芸サークルも立ち上げました。

 言葉は心を表します。文章を書いたり、言葉で表現したりすることは、自らの心を裸にしてさらけ出すことに近い。相当の覚悟が求められます。だからこそ、私は書くことに対して、憧れと同時に畏敬の念も抱いてきました。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ライフ ライフスタイル