評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。
今年も入試シーズンを迎えた。最近ではAO入試や推薦制度を使って進学する高校生も増えているが、大学入学共通テストが全国的な一大イベントである事情は変わらない。中高一貫校が増える中で中学入試はその後の長い人生の命運を左右しかねない重要性を増している。
注目度の高い入試はそれをテーマにした新書も多い。その中の一冊、おおたとしまさ編著『中学入試 超良問で学ぶニッポンの課題』(中公新書ラクレ)には驚かされた。外国人労働者問題を例に日本政府の人権軽視傾向を扱ったり、ジェンダーギャップ指数の低さを指摘して「女性活躍社会」から程遠い日本の実情について考えさせたりするなど、小学生がこれを解くのかと思う出題例が紹介されていたからだ。社会問題が未来に解決されることを期待し、受験する小学生にその理解を求める姿勢は印象的だ。
西岡壱誠『小学生でも解ける 東大入試問題』(SB新書)は、東大の入試といえば受験勉強を重ねに重ねてようやく突破できるものだと考える常識を覆す。それは問題が簡単だというわけではない。考え方を工夫すれば知識の蓄えを必要とせず、その意味で小学生でも解ける問題が用意されている。それは普遍的に通用する豊かな思考力を備えた学生を選抜したいという出題意図の表れだろう。
斎藤哲也『試験に出る現代思想』(NHK出版新書)にも感心させられた。大学センター試験、共通テストには現代思想の祖となったフッサールやフロイト、難解をもって知られるフランス現代思想のフーコーやデリダまでもが取り上げられてきた。入試問題を現代思想入門に用いる趣向の新書だが、そうした本づくりが可能なのは、現代思想を読解できる存在として受験生を信頼する出題者あってのことにほかならない。
自公政権はこの約20年間のうちに教育基本法を改正して愛国心に関する文言を盛り込み、道徳を「特別の教科」に格上げした。たとえば大学センター試験から共通テストへの移行は、そうした教育への介入の最終局面のように思われた。入試を変えれば、その対応を余儀なくされる高校までの教育を最も効率的に変えられるからだ。
しかし今回紹介した「驚き三連発」の新書を見る限り、入試は伝統回帰とは別方向に進化している印象だ。未来をよりよく変える力を備えているか、見極めようとする入試を突破してくる若者たち。彼らの可能性を正しく開花させられるか、私たちの社会もそこでは同時に試されているのだろう。
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