先の東京五輪を巡る汚職事件は、組織委員会の元理事に始まり、多くの逮捕者を出す事態となりました。しかし、なぜこうした事態に陥ってしまったのか、検証が不十分なまま、2030年の札幌五輪招致に向けた動きは着々と進んでいます。
今回、国民を失望させたのは、汚職の手口が「そんなに簡単に?」と思ってしまうほど、単純であからさまだった点です。多額の賄賂を受け取り、便宜を図る。まるで「水戸黄門」の悪代官と越後屋のような典型的な構図で、これほど低いレベルの汚職がまかり通るのかと、ショックを受けた人は多いと思います。
たしかに、これだけ多くのお金や巨大な組織を動かすためには、完全にクリーンで真っ白な運営というのは難しいものです。「必要悪」も、多少はあるのかもしれません。しかしそれには、越えてはいけない一線というものがあります。組織のガバナンスが機能していれば、要所要所で歯止めをかけることができた。しかし今回は、ガバナンス以前に「知っていたのに見て見ぬふりをした」のではとも勘繰ってしまいます。
東京五輪の組織委は2022年6月に既に解散しているため、汚職事件に関する説明責任が果たされることはありません。国や都は再発防止に向け、今後日本で開催する国際大会の運営の在り方を検討する組織の立ち上げを示しています。しかしこれらの組織は、五輪汚職が刑事事件であることを理由に、その検証は一切行わないと明言しています。
どんなスポーツにおいても、ミスをした際、その原因を検証し、次の試合に活かすという作業は必須です。負けた試合を振り返らないアスリートはいません。アスリートでなくても、例えばテストで悪い点数を取ったら振り返り学習をしなければいけないということは、誰もが習うこと。0点のテスト用紙を復習もせず捨ててしまえば怒られて当然ですが、国や都、元組織委がやろうとしていることはそれと同じことなのです。
今回の汚職事件の根本的な問題点は、五輪ビジネスをめぐる組織の構造やガバナンスの在り方のはずなのに、そうした点がうやむやになり、逮捕された個人だけに責任が転嫁されつつあるように思います。問題が矮小化されることには、強い危機感を覚えています。
立場と責任を「わきまえる」
汚職事件の検証がほとんどなされていないにもかかわらず、札幌は2030年大会の最有力候補地とも言われています。招致委員会は「クリーンな大会」の実現をアピールしていますが、先の失敗の検証なくして、再発防止策を講じることなどできません。今のままでは、地元住民や国民の理解を得るのは難しいでしょう。汚職事件が明るみに出る前、2022年の3月に市が実施した市民意向調査では、賛成派は約半数にとどまったといいます。事件発覚後は、民意調査すら行われていません。
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source : 文藝春秋 2023年2月号