サッカー日本代表に足りないもの

スポーツの光と影

セルジオ越後 サッカー解説者
エンタメ スポーツ
セルジオ越後氏 ©時事通信社

「新しい景色を」。そんなスローガンを掲げてカタールW杯に臨んだ日本代表だったけど、終わってみれば「いつもの景色」だったね。決勝トーナメント1回戦でクロアチアを相手に延長戦まで闘った末にPKで敗れ、悲願のベスト8進出はまたも果たせなかった。W杯に7大会連続で出ていながら、一度もベスト16の壁を越えられないのは、なぜなのか。

 一言でいえば、日本には未だサッカーが文化として根付いていないからだと思う。例えば今大会のグループステージでドイツとスペインを破ったのは確かにすごかったけど、その後がマズかった。サポーターもメディアもあまりに、はしゃぎすぎたね。“ジャイアント・キリング(=巨人殺し。大番狂わせの意)”で大騒ぎするのは、裏を返せば日本自身がジャイアントではないからで、世界の強豪国(ジャイアント)はグループステージを突破したくらいで、あんなに大騒ぎしない。そこでみんなが満足してしまったら、代表チームが弱くなることを知っているからだ。だから強豪国が大騒ぎするのはむしろ自国が負けたときで、そのときは評論家はもちろん、大会に出ていた選手や監督までメディアに出演して「なぜ負けたのか」を徹底的に議論する。

 ところが日本では、今回のような負け方をしても、メディアは「感動をありがとう」一色になる。問題なのは、代表監督の任命責任があり、その実績を評価する立場にあるJFA(日本サッカー協会)までもがその空気に流されている点だ。だってクロアチアに負けて数時間と経たないうちに、〈森保監督に続投要請へ〉という報道が出るんだから。プロの世界は結果がすべてなのに、そこに対する検証も反省もないままに、ノルマを達成できなかった監督の続投ムードが高まる国は、世界中を探してもそうはないんじゃないかな。

 W杯のサッカーには国と国の文化のぶつかり合いという側面がある。

 面白いのは、過去のW杯優勝国(ブラジル、イタリア、ドイツ、アルゼンチン、フランス、ウルグアイ、イングランド、スペイン)はほぼすべてカトリックの国という点だ。カトリックの場合、日曜日は安息日として商業施設が全部閉まるから、人々が集まって楽しむ受け皿が必要で、そこでスポーツが大きな役割を果たすようになった。開放された公園でサッカーをしたり、試合を観に行ったり、誰もが文化としてのスポーツに親しむ環境が身近にある。日本はどうかといえば、公園を行政が管轄し、ここでボール遊びするな、という禁止事項の書かれた看板ばかり――。

 この差は大きい。さらにいえば、JFAがかつて文科省の管轄下にあったことからもわかる通り、日本のサッカーには「教育」の要素が強い。高校サッカーでも、監督と選手の関係は、本質的には先生と生徒の関係なんだね。だから監督(先生)から「この練習をしなさい」と言われたことをこなす時間が長くなって、自分で考えることをしなくなる。

カタールW杯はベスト16に ©時事通信社

スターがいなくなった

 最近の日本代表を見ていて思うのは、メディアに作られた「アイドル」はいるけど、「スター」がいなくなったよね。三浦知良(カズ)や中田英寿、本田圭佑のように1人で局面を打開できる存在がいない。Jリーグ発足から30年以上が経ち、今や日本各地にS級ライセンスを持った指導者がいて、以前に比べ、格段に恵まれた環境になっているのに、第二のカズが生まれないのはなぜか。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : エンタメ スポーツ