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ロシアのウクライナ侵攻開始から間もなく1年。日本でも防衛に関する議論が白熱しています。中でもしばしば耳にするのはこんな声です。
「中国、ロシア、北朝鮮という権威主義国家に囲まれているんだから、当然防衛費は増やすべきだ」「GDP比1%ではとても足りない。2%に引き上げろ」「ただし財源は国債で。増税なんてありえない」
どうする日本。どうする岸田政権。
というわけで、今月号の目玉企画は「防衛費大論争」です。
自民党で防衛費の財源を検討する特命委員会委員長を務める政調会長の萩生田光一さん、元陸将で現役時代には中期防の予算策定をめぐり財務省と折衝を重ねてきた山下裕貴さん、財務省出身で法政大学教授の小黒一正さん、そして外交安全保障の権威である京都大学名誉教授の中西輝政さんにお集まりいただきました。
ポイントは3点。①防衛費GDP比2%の是非、②財源は誰が負担すべきか、③実際に国防に必要な装備は何か。
私がとりわけ感銘を受けたのは中西さんの「歯止めの議論」です。中西さんは、安保3文書の改定と防衛費の大幅な増額を高く評価しながらも、こう言うのです。
「今後大切なことは、これで気が大きくなりすぎて、『国債をどんどん発行しよう』『戦闘機やミサイルをもっと買おう』とタガが外れてしまっては、悲惨な歴史を繰り返すことになる」
あわせて、中西さんのこの発言も胸に刻んでおくべきでしょう。
「財源の足らざる部分については、今を生きる私達が『国を守るんだ』という気概をもって負担すべきなのです。周辺情勢を見ても、この国民の覚悟こそが最大の抑止力であり、それを内外に示さなければなりません」
この大座談会の後に、キーウ在住のジャーナリスト古川英治さんの現地報告「怒りと裏切りのウクライナ」を読むと、戦場のリアリズムに圧倒されます。
目を背けたくなるような凄惨な現場にも衝撃を受けましたが、何より戦う姿勢を崩さないウクライナの人々の姿に心を揺さぶられました。
「郷土防衛隊」で戦う50代の女性医師は古川さんの取材にこう答えています。
「ウクライナが勝つと私は楽観視しているが、それまで私が生き残るかは分からない。私たちの多くは死ぬことになるだろう。最悪なのは中途半端に戦を止めることだ。歴史を見れば、ロシアは常にウクライナを侵略し、市民を殺している。我々の世代でカタをつけなくてはならない」
日本人はこんな覚悟を持てるのか? 深く考えさせられました。
文藝春秋編集長 新谷学
source : 文藝春秋 電子版オリジナル