評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。
4月が近づくと引っ越し業者は多忙を極める。進学や就職のために故郷を離れる人が増えるからだ。新しい場所で生活を始めた人は、どのように郷愁の想いを抱くのだろうか。
湯澤規子『「おふくろの味」幻想』(光文社新書)によれば、郷里の記憶とつながる料理を「おふくろの味」と呼ぶ習慣は、実はそう古いものではないらしい。その語を書名に含む書籍を国会図書館所蔵資料の中で調べた著者は、多くが70年代以降に刊行されていると指摘する。母親を「おふくろ」と呼ぶのは男性だけであり、「おふくろの味」は高度経済成長期に急増した、故郷を離れて都市で働く男性が「発見」したものだった。
こうした「おふくろの味」という言葉は、男は外で働き、家事は母親がすることを自明の前提として性役割を固定するとみなされ、21世紀に入ると使用が控えられてゆく。しかし、鳥越皓之『村の社会学』(ちくま新書)によれば、本来の日本の村は母親だけに家事労働を強いる場所ではなかった。三世代を基本単位とする家族は家内・家外の労働で多彩な分業と協業をしていたという。
こうした村が人口流出による過疎化で今や消滅の危機に瀕している。そんな逆風の中で注目すべき地域再生の試みを紹介するのが藻谷ゆかり『山奥ビジネス』(新潮新書)だ。あえて地方で起業し、成功した例には共通点がある。地域に根差す小規模な組織でありながらネットを通じて世界とつながり(SLOC:Small,Local,Open,Connected)、地域固有の様々な条件を活かして環境負荷が少なく(=ローインパクト)、高付加価値(=ハイバリュー)の商品やサービスを提供することだと著者は考える。
そして、そうした新ビジネスを起爆剤として発展しうる地域の条件として、若い女性が「家」に縛られずに働ける場があることを著者が重視しているのは印象的だ。確かに“長男の嫁”に家事を押しつけるような地域から地元女性は流出し続け、そこに移住しようとする女性も増えないだろう。
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source : 文藝春秋 2023年4月号