日本の優勝で幕を閉じたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。一次ラウンドで対戦したチェコ共和国の代表選手たちも、その勝利を喜んでいます。
この大会で私は、チェコ代表の移動の手配から食事の注文、練習試合の設定まで、英語でコミュニケーションしながらサポートしました。プロ野球選手を目指していた私は、アメリカや日本の独立リーグなどを経て、11年前にチェコのチームでプレーした経験があります。今回の代表チームには当時のチームメイトや、ユース時代に指導した選手が何人もいたので、何かできることはないかと、チームへ連絡したのがはじまりです。
ハジム監督の本業は神経科医。日本戦で大谷選手から三振を奪ったサトリア投手は電気技術者。佐々木朗希投手の163キロを打ち返したフルプ選手は大学生。それに学校の先生や消防士、サラリーマンなどで構成されたチェコ代表に、多くの日本の野球ファンが親近感を抱いて、大きな声援を送ってくれたことはうれしい限りです。
日本には2対10で敗れましたが、印象的だったのは、試合終盤でも席を立つ観客が少なかったこと。点差は開きましたが、最後まで緊迫感のある試合だったからではないでしょうか。
なぜ野球の競技人口が少ないチェコの代表にそんな試合ができたのか。まず言えるのは、チェコには運動能力が高く、体格のいい人が多い。これはチェコで私も実感したし、今の代表にも身長190センチ前後の選手が何人もいます。それにサッカーやアイスホッケーなどチームスポーツが盛んな影響なのか、選手の戦術の理解能力が高い。点差やカウントなど状況に応じて何をすべきか、選手が分かっているのです。
最近はそれにアメリカのパワー野球が加わりました。MLBのアカデミーによる指導プログラムが普及しているからです。フルプ選手のように有望な若手をアメリカの大学へ送り込むルートも確立されています。アメリカの大学には、上のレベルになると160キロを投げる選手がいる。だからフルプ選手は佐々木投手の球に対応できたのです。
本業が意外な面で活きたこともありました。大会前の壮行試合での、侍ジャパンの栗山監督の表情をテレビで観たハジム監督は、「クリヤマは相当、疲労が蓄積しているな」と“診断”。疲れると誰しも判断は遅れがち。「そこに我われが付けこむ余地がある」と言っていましたね。
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source : 文藝春秋 2023年6月号