月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。異例の長期休暇を満喫した安倍が見上げた夏空には、雷鳴が轟いていた。
8月23日夕、東京都庁で行われた「2020年東京オリンピック・パラリンピック招致出陣式」。
首相・安倍晋三は冒頭、約800人の出席者の前で熱弁をふるった。
「1964年の東京五輪招致が決定したのは59年だった。当時は敗戦から14年。日本は貧しかったが、みんなの燃えるような熱意が、成功につながった」
59年に誘致成功した時に首相だったのは安倍の祖父・岸信介。祖父に憧れを抱き、足跡をたどりたいと思う安倍にとって五輪招致は悲願だ。前日に発表された世論調査では「東京五輪開催が好ましい」と答えた人は92%にのぼっている。アベノミクスの「三本目の矢」とした成長戦略に迫力を欠き少々苦戦している今、五輪招致こそ、さらに支持を広げ、景気を刺激し、長期政権を築く矢となると思っている。
この後、壇上に上った元首相の森喜朗が「(支持率)92%。安倍さんもうらやむ数字だ」と、安倍の胸の内を見透かしたようなジョークを飛ばすと、場内からは笑い声が起き、安倍も苦笑してみせた。
安倍は表面上は、余裕に満ちた夏を過ごした。山梨県鳴沢村の別荘を拠点に、たまに公務を交えながら10日以上の休みをとり、6回ゴルフを楽しんだ。ただ、そこから漏れて来る肉声は、余裕綽々とは程遠いものだった。
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source : 文藝春秋 2013年10月号