なぜ信仰は国家主義と結びついたのか?(構成:栗原俊雄)
まもなく安倍晋三元首相の暗殺から1年が経つ。その衝撃も冷めやらぬ今年4月、和歌山市内の演説会場で岸田文雄首相に爆発物が投げつけられた。幸い岸田首相は無事だったが、破裂した金属片の飛び散り方によっては死者が出かねない事件であった。1年足らずの間に首相2人の命が狙われたのは、明らかな異常事態である。
近代日本の歴史を振り返ると、首脳を狙ったテロの連鎖は、昭和初期にまで遡らなければならない。昭和5(1930)年11月に発生した濱口雄幸首相襲撃事件以降、昭和11年2月の「二・二六事件」まで、要人を狙ったテロが相次いだ。それから約90年ぶりの事態である。
本連載で何度か言及してきたが、昭和初期のテロには以下のような特徴があった。
(1)要人を狙うテロが次のテロを誘発し、連鎖するようになる。
(2)国民の間にテロを「義挙」として称揚する空気が生まれる。
(3)政治家が暴力に脅え、言論の自由が失われてしまう。
こうした負のサイクルの末に、日本は戦争への道を転がり落ちて行ったのだが、閉塞感が漂う現在の日本でも、まかり間違えばこのような事態が起こりかねない。
そこで、今回と次回の2回にわたって、テロの連鎖に流れる地下水脈を分析してみたい。
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source : 文藝春秋 2023年7月号