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前回に続き、「100年の恋の物語」から、田原総一朗さんと下重暁子さんの対談「恋のない人生なんて!」をご紹介します。
田原さん89歳、下重さん87歳。お二人の丁々発止の掛け合いは、私も同席しましたが、何度も膝を打ち、何度も大笑いし、何度も感動しました。
田原さんが不倫の末に結婚した二番目の奥さん・節子さんと下重さんが親友だったこともあり、秘話が次々に飛び出します。
田原さんの最初の奥さんが病気で亡くなった時、下重さんも葬儀に参列していたそうです。
下重 そこでせっちゃん(節子さん)にバッタリと出くわした。どうしたらいいか分からない表情で、身の置き場もないくらいに憔悴していてね。それを他の参列者たちは、「なんで不倫相手が正妻の葬式に来ているんだ?」と冷ややかな好奇の目でジロジロ見ていた。私は彼女の気持ちが痛いほど想像できて、「よし、今日はずっとせっちゃんの傍にいよう」と決めたの。
田原 それはいま初めて聞いた話だなあ。
田原さんはつねに率直で明快です。
田原 不倫を隠すつもりはありませんでした。僕はジャーナリストを志した時、人のプライバシーを暴くのだから、自分のプライバシーもゼロだと決めていた。
田原 ふふふ……実は、僕にはガールフレンドがいましてね。年は同じくらい。(節子さんが亡くなって)僕が73歳の時からの関係なので、もう15年以上もお付き合いが続いています。
私がとりわけ感動をおぼえたのは、田原さんが対談を担当した女性編集者や、男性デスクの恋愛体験を、「あなたの場合はどうだったの?」と、「朝まで生テレビ!」さながらに繰り返し聞いた場面です。
取材を受けながらも、自らの好奇心に忠実に、いつのまにか取材者になってしまう。
しかも聞き方に「いやらしさ」がまるでなく、むしろなんとも言えない「やさしさ」があるのです。
私が最初に田原さんにお会いしたのは「週刊文春」記者時代。業界のタブーに斬り込んだ著書『電通』や、禁断の映画『原子力戦争』などに大いに刺激を受けていたこともあり、過激で近寄りがたいイメージを抱いていました。ところが実際お会いしてみると、同じ取材者として、ざっくばらんに政局に関する情報交換を求められた記憶があります。
私は相手によって態度を変えない人が好きです。
取材相手が総理大臣だろうが、ヤクザの親分だろうが、右翼だろうが、左翼だろうが、ベテランだろうが、駆け出しだろうが、媚びないけど、威張らない。
田原さんの若手編集者への柔らかいまなざしを見ていて、自分もかくありたいと思いました。
6月2日にオンライン番組「鈴木敏夫はどう生きるか」でお会いした鈴木さんにも、素晴らしいお話をたくさんお聞きしました。
ポリコレの嵐が吹き荒れる世の中で、「正しいか、正しくないか、だけでなく、面白いか、面白くないか、をもっと大事にしたいですよね」と問うと、鈴木さんはこう答えました。
「そう。あと、美しいか、美しくないか、だよね」
何気ない一言ですが、「文化」、「文明」の本質を突いた言葉だと感じ入りました。
素晴らしい先輩方からの教えはいくつになっても有難いものです。
文藝春秋編集長 新谷学
source : 文藝春秋 電子版オリジナル