アフリカの光

平野 光芳 毎日新聞ヨハネスブルク支局長
ニュース 国際

 夜、子供たちと自宅の庭に出て空を見上げる。星ってこんなに明るかったんだ――。窓から外を見回しても街は真っ暗で、数キロ先を走る車のヘッドライトがはっきりと見える。アフリカ大陸をカバーする特派員として日本から南アフリカ・ヨハネスブルクに赴任して2年半あまり。最近特に悩ましいのが頻発する停電だ。

 アフリカというと広大なサバンナをゾウやライオンが闊歩する姿を思い浮かべるかもしれないが、ヨハネスブルクはちょっと違う。富裕層が暮らす地区はゆったりとした美しい邸宅が広がり、高層ビルや、日本のイオンモールに負けず劣らずの巨大なショッピングモールがいくつもある。「プチ先進国」のようなアフリカ随一の大都会なのに、電気が来なくなると街は死んだようになる。

 これが東日本大震災のような大規模災害とか、石油ショックのような急激な国際情勢の変化だったらまだ諦めもつく。ところが最大の理由は政治家や役人の汚職・腐敗なのだから、腹が立って仕方がない。

 南アフリカでは1990年代半ばまで白人が政治、経済で圧倒的に優位に立つ「アパルトヘイト」(人種隔離)が行われた。白人政権は黒人を酷使して立派なインフラを整備する一方、黒人は家に電気もないような劣悪な環境に置かれた。世界有数の石炭産出国でもあり、国営の電力公社は炭鉱のそばに火力発電所を造って石炭を燃やし、20年ほど前までは先進国以上に安価で安定した電力を供給する「超優等生」だった。

 ところがアパルトヘイト後の黒人政権は、初代のネルソン・マンデラ大統領を除けば汚職がひどい。老朽化した発電所を更新しようとすると、利権や賄賂を求める政治家が群がり、予算不足で前に進まなくなる。炭鉱業者と発電所の職員、政治家が結託し、質の悪い石炭をごまかして納入するから、設備の故障が頻発する。あれよあれよと電力網が劣化し、最近では毎日10時間前後の計画停電が当たり前になってしまった。

 影響はきりがない。電力公社が発表する停電スケジュール表をスマートフォンでチェックしながら、洗濯機を回している。冷凍庫には保冷剤をたくさん入れて、停電中はなるべく開け閉めしないようにするが、冷凍食品が溶けてしまうこともある。道路の信号機は点灯せず、そこかしこで渋滞が起きる。都市部ではWiFiが普及し、動画が快適に見られるほど速度は速いが、これも使えなくなる。自家発電機を備える建物もあるが、燃料代は通常の電気代に比べて割高なので、稼働させるほど損失が出てしまう。この原稿も停電中にノートパソコンを使って書いている。

 2022年7月、ウクライナ戦争の応援取材で2週間ほど首都キーウなどに滞在した。現地では時折、空襲警報が鳴り響いたが、滞在中、停電は一度も経験しなかった。帰国後、「戦争をしている国でも停電はなかったよ」と話すと、子供たちが目を丸くしていた。

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source : 文藝春秋 2023年8月号

genre : ニュース 国際