「審査は絕對公平」。本音丸だしの選考会が始まる
「文藝春秋」の発行部数は菊池寛の衆議院選挙立候補のあと一時大幅に落ち込んだが、その後は順調に推移し、広告部の不正発覚、発禁処分などにもかかわらず、昭和7年以後は文藝春秋社も再上昇軌道に乗った。昭和12年1月号に載せた「十五周年に際して」というエッセイで菊池寛はこう回顧している。
「社そのものゝ、浮沈はあるが、『文藝春秋』そのものはいつも賣れてゐたのである。たゞ、その間に發行した『演劇新潮』『映畫時代』『婦人サロン』『モダン日本』などは、みんな損で、各雜誌で五萬圓宛位は、損をしたであらう。(中略)
こんな雜誌をやらなかつたら、文藝春秋社は、もつと早く、よくなつてゐたに違ひない」
これは裏を返せば、新雑誌の創刊失敗や不正などで生じた赤字を補って余りあるほどに「文藝春秋」がよく売れていたことを意味する。では、その部数拡大を支えていたものは何だったのだろうか? 雑誌造りの名人としての菊池寛の嗅覚であったに違いない。
杉森久英は『小説菊池寛』(中央公論社)で、部数拡大の原動力となったのは菊池寛が次々に打ち出した新企画であるとして、(一)「社中日記」(二)「目・耳・口」(三)「鉄道時刻表」(四)「話の屑籠」の欄の新設を挙げている。
まず(一)「社中日記」からいくと、これは昭和3年2月号から始まったもので、最初は「社中の日記」と題されていた。内容は現在とまったく同じで、文体も同じ! つまり、「社中日記」は文藝春秋社の社員たちのいささかトンマな日常をかなり誇張した戯文体で楽屋落ち的にレポートするという点では基本的に変わっていないのである。ためしに最初の社中日記を掲げてみよう。
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source : 文藝春秋 2023年9月号