ミステリーの巨匠宮部みゆきが俳句を? そんな疑問を抱くかもしれない。俳句から着想を得て書かれた短編小説が贅沢に12編も詰まった1冊。はじまりは、ある会合だった。
集う15人は「歌う」こともあれば、「詠う」こともある。その名も「BBK」。「ボケ防止カラオケ」ないし、「ボケ防止句会」である。
「2010年頃から、同世代の仕事仲間たちとカラオケする会を始めました。『3、4カ月から半年に一度集まって、毎回必ず1人1曲は新曲を披露しよう。新しい音楽に興味を持てるし、ゆくゆくはボケ防止になるに違いないよ』って」
始動から約2年、1冊の句集に出会う。『怖い俳句』(倉阪鬼一郎、幻冬舎新書)。古今の俳句から選ばれた「怖い」名句が並ぶアンソロジーだ。長く江戸怪談を書いてきた宮部さんは「怖い」というキーワードを入口に、一切触れたことのなかった俳句の世界に瞬く間に引き込まれた。
「自分でも詠みたいと思ったものの、ド素人なものでどうすればいいかわからない。俳句は『座の文芸』ともいわれるし、とBBKのメンバーを誘ったらみんなすごく乗り気で。気づけば『ボケ防止句会』になっていました」
切磋琢磨しながら句を詠むうち、“骨がらみの小説家”の性(さが)が疼いた。
俳句を小説の題材にできないか――。
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source : 文藝春秋 2023年10月号